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 青空、夜空、とページが続いて、最後にはきれいな夕焼けが映っている。赤、橙に、黄金色の混ざった夕焼けが海の波に反射して、この世のものとは思えないようなきれいな一瞬を閉じ込めた写真。芳晴さんはそれをじっと見つめながら、これか、と呟いた。 「…芳晴さん?」 「僕の瞳の色が夕焼けだって、言われたんだ。綺麗な夕焼けみたいな色だって。僕はきれいな夕焼けを知らなかったけど、そっか、これか、ふふ」 嬉しいなと笑って、「これ買おう」と芳晴さんが写真集を手にレジに向かう。その背中を見つめながら、俺はふと首を傾げた。 「綺麗な、夕焼け…」  レジで支払いを済ませて嬉しそうな表情の芳晴さんが、俺をじっと見つめてまた笑う。 「朔、部屋はどうする?前と同じアパートなら空いてるんじゃない?」 「いや、」 「…?」 大事そうに写真集の入った袋を抱えて、芳晴さんが首を傾げる。本屋をあとにして少しだけ歩くと、俺は足を止めた。 「――――――芳晴さん」 「? うん」 「このまま、一緒に住みませんか」 「……………………………………………………………………………僕と?」  長い沈黙の後、芳晴さんが目をぱちくりと瞬かせながら答えた。そしてもう一度「僕と?」と呟く。それにはいと答えて、俺は額に手をかざした。 「……その、……少しだけ、知りたいなと思ったんです。芳晴さんの事」 「僕の事」 「そうです。確かに性格は破綻してるし、自分勝手ですけど、とりあえず俺の事を考えてくれてたのは、わかりましたし。何かまた間違ったことしたら、俺が言うんで。芳晴さんは人間の気持ちが分からないって、言いましたけど、俺も同じです。…芳晴さんの気持ちが、まだよくわかりません。だから、」 少しづつ、知っていけたら。そう言い切る前に、芳晴さんに腕を引かれた。足早に歩く芳晴さんは、人の少ない路地に入ると俺の体を抱き寄せて、長く息を吐いた。抱きしめた拍子に地面に落ちた本が音を立てて、あ、と短く声を上げる。 「――芳晴さん、本、お」 ちましたよ。と言葉をつづけられなかった。 目の前にきれいで長いまつ毛が揺れて、目を見開いた。あ、また甘い匂い。と思う前に塞がれた唇に息をするのを忘れてしまった。 一瞬だけ触れて、離れたそれは間違いなく芳晴さんの唇で、俺は一気に顔が赤くなるのを感じてうつむいた。 「朔」 「っ、あの、なに、」 「我慢できなくて」 よいしょと地面に落ちた本を拾うと、芳晴さんが俺の手を掴んでゆっくりと歩き出した。握られた右手と、左手の甲を唇に押し当てて、俺もゆっくりと歩く。  俺はキスすら初めての事で、少しだけ驚いてしまった。キスに驚いたというより。まったく嫌じゃなかった自分に驚いた。それはきっと芳晴さんがきれいだからとかいう事じゃなくて、本当にまったく嫌じゃなかった。俺も芳晴さんも男なのに。 「………」 「…朔」 ずっと俯いて歩いていた俺は、芳晴さんが足を止めた場所を、名前を呼ばれて確認した。見上げた先に見えたのは雑貨屋さんだ。全国に展開するここら辺でも一番大きなその雑貨屋には、生活用品から洋服まで幅広く販売されている。 「……ね、朔のものが少ないから、一緒に住むなら買ってこ。パジャマとか、朔の使うもの、増やしたいんだ」  その、キラキラとまぶしい微笑みをやめてもらいたい。今は切実に。

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