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 寝室は別々。朝は必ず芳晴さんが起こしに来るし、先に寝るのも俺だ。だから、芳晴さんがいつ寝て、いつ起きてるのか、俺は全く知らない。 「………ほんと、芳晴さんそのエプロンなんなんすか…」 「え?調べたら、新婚は奥さんがフリルのエプロンを着て料理するって書いてあったから。持ってたんだよね、フリルのエプロン」  エプロンの裾を持ちながらくるりと回って見せる芳晴さんはどう見ても美女で困る。 「……持ってるって、すごいっすね」 「朔に会いに行く前に結構調べたんだよ?人が良くやってる夫婦間のやり取りとか、定番の挨拶とか」 「そのずれた知識の原因はそこですか………」 「裸エプロンもできるよ?」 「しなくていいです。だから、脱ごうとしないでください!」  エプロンの肩ひもをずらしながらだめなの?と聞いてくる芳晴さんに、俺は全力でだめですと答えた。少しだけ不満そうだけど、仕方ないなぁとエプロンの紐をもとに戻して、一緒にテーブルにつく。  俺と芳晴さんが一緒に暮らすにあたって、決めたことが一つある。それは、一緒にご飯を食べること。これを言い出したのは、芳晴さんだった。 「――――そういえば、芳晴さんって仕事してないんですか?」 「必要ないんだ。お金ならあるし、湧いてくるから」 「…………………………………………………………………………………………………はい?」 「僕、お金をくれる人がたくさんいるんだよ。後は遺産っていうの?それも結局は両親が死んだから僕のものだし」 「お金をくれる人が、いるんですか?」 「うん、そう」 あっけらかんと言いながら、テーブルに並べられた朝食を食べる芳晴さんをじっと見つめて、俺は静かに箸をおいた。 「……朔?」 どうした?おいしくない?そう聞いてくる芳晴さんにそうじゃないと答えて、ため息を吐いた。 「………あの、芳晴さんにあってから五日経ちましたけど、取りあえず、話し合うことがまた増えたのはわかりました」 「? 僕何かした?」  した。めちゃくちゃした。この人はどうしてこう、爆弾を平気で投げてケロッとしてるんだ。常識がないからか。そうか。そうだった。芳晴さんに世間一般の常識はないんだった。頭を抱えたくなることが多すぎる。 「朔?」 「あの、まず、お金をくれる人がいるのは悪くは………ないのかもしれませんけど、俺は好きじゃありません」 「…………朔が?」 「そうです。俺は、楽して得たお金で悠々自適には暮らせない性格なんです」 「…………………………そう」  芳晴さんのご飯を食べていた手が止まり、何かを考えるように少し目を伏せた後、うん、と頷いた。 「僕、ご飯食べたら少し出てくるね?」 「はい?」  よし、と一言呟くと、芳晴さんはいつもより早く朝ごはんを平らげた。         ★ 「…………うーん」  お昼には帰ってくるからと、珍しくジーパンにシャツ(ただしフリル)とシンプルな格好で出ていった芳晴さんは、時間には意外と正確だ。お昼に帰ると言ったからには、恐らくもうすぐ帰ってくる。 俺はキッチンに立って、腕を組んで考えていた。何か作って待っていた方がいいのか、と。かといって俺はシンプルなものしか作れない。炒飯とか、目玉焼きとか。 「…こうなってくると、芳晴さんと家事も分担した方がいいよな、やっぱり」  最初、この部屋に一緒に住むって決めた時に、俺は学生だから家事は自分がやると芳晴さんが言って譲らなかったので、そのまま任せることになったのだけど、やっぱり俺も少しくらいはできた方がいい。まかせっきりはよくない。このままだと俺がダメ人間になりそうだ。 と、一人悶々と考えていると、玄関の扉が開く音がした。 「あ、おかえりなさい。芳晴さん」

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