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 気が付いたら全く知らない場所に居て、持っていたはずのカバンはないし、なんだか頭も痛いしで最悪だった。うっすらと視界に入ったのは、コンクリートが打ちっぱなしの壁。 「マジでどこだここ」 ぽつりとつぶやいた言葉に、返事は当然なかった。 カバンがないということは、携帯電話も手元にない事になる。うっすらと入る光からみても、まだ昼間。おそらくこのままここから出られずに日が暮れたら、まずいことになる。  どう見ても今自分がいる場所は窓がない。と言うか、天井が高い。わずかにさす光の位置から見ても、高さだけで四メートルほどありそうだ。下手をしたら地下と言う事もありえる。暗闇に慣れてきた視界であたりを確認すると、天井付近の壁からわずかにさす光が、さっきとっさに確認したものかとうなだれた。  兎にも角にも、夕方までにはマンションに帰らないと、まずいことになる予感しかしない。予感と言うか、確信と言うか。芳晴さんの性格上、恐らく俺と連絡が取れない時点で探し始めるだろうし、俺がここに閉じ込められていて、カバンがない以上、俺の携帯は誰かの手にある。電話はかかってきたら通話自体は可能。もしそこで「俺以外の誰か」が出た場合、かなり、まずい。 「………出口は……」 ないか、とこぼしてから床に座った。 床もざらざらとしていて、埃っぽい。空気が悪いのはわかるけれど、出口がないから対処の仕様がないなと膝を抱えた。  次第に陽が傾いてるのが分かるし、本当にこのままだとまずい。どうにかして携帯だけでも手に入らないだろうか。そもそも、俺はどうしてこんな目に遭ってるんだ。何か悪いことでもしたんだろうか。まったく記憶にないのだけど。 「――――――?」 膝を抱えて座っていると、ぴちょんと音が聞こえて、顔をあげた。と、また鼻先にぴちょんと雫が落ちてくる。 「………水?は?」 いやいや、まてまて、水はまずいだろ。 水攻めはまずいだろ。確実に死ぬ。死ぬ予感しかしない。まずここが地下なのか、そうじゃないのかもまだわからないのに、対処のしようがない。 「えぇ…………?」  これは本当に、絶対絶命なんじゃないだろうか。ここでパーンと助けが表れて救出してくれるようなチープな展開を全力で所望する。せめて水じゃなくてぬるま湯くらいにしてくれないだろうか。水はさすがに風邪をひく。 「………芳晴さんは………今何してるかな」 俺がいないとわかったら探すのは確信してるけど、見つけてくれるんだろうか。もし見つからなかったら俺はこのまま死んでしまうのだろうか。それは、嫌だな。せっかく芳晴さんの事が分かってきたのに。  突然脱ぎだしたり、いつも女性の服を着ていたり、料理がめちゃくちゃうまかったり、でも結構常識がなくて、知り合いの紹介で働き始めた飲み屋でも、最近やっと従業員の名前を覚えたらしい。いつも綺麗で、でも、事あるごとに「僕を好きなった?」って聞いてくる。そこまで走馬灯のように頭に巡り、ふと我に返ってズボンのポケットをまさぐった。 「あった」  つい最近、お守りだよと渡された白い小さな指輪。子供サイズなのか小指にしか入らないようなその指輪は、芳晴さんが常に持っててと俺にくれたもの。掌で転がして、ぎゅっと握る。  ずっと聞こえる水の滴り落ちる音が、僅かに早くなっていた。 「………」

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