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はっと息を吐いて、もう一度あたりを見回した。壁には取っ手やくぼみの一つもない。床もざらざらだし、高さはあるけど広さはない。と言うことは、このいまぴちょんぴちょんとうるさいこれがさらに勢いを増したら溺死する予感しかしない。
「………参ったなぁ」
小さくつぶやいて、差し込む光を見上げると、僅かに陰ってきている。まずい。
完全に陽が落ちて、あたりがまた見えなくなるころには、水もたっている俺の膝くらいまでたまっていた。
「これは………さすがに寝たら死ぬかな」
夕方になっても、夜になっても携帯電話の音は聞こえなかったし、それどころか人の声も、車の音もしなかった。たぶん、俺をここに閉じ込めた人は、放置してこの場にはいないのだろう。それはそれで、参った。
さっきから天井の方からみしみしと音が聞こえるし、水も増えてきているし、もし天井が崩壊して大量に水が入ってきたら、逆に外に出れるのかもしれない。
「それも有かなぁ」
うーん、と腕を組んで考えていると、僅かに足音が響いた。思わず息をひそめて、じっと天井を見上げる。
「だめだよ、朔」
小さく声が聞こえて、息をのんだ。でも、いくら見つめても芳晴さんの姿が見えなくてうなだれながら握りこんでいた指輪を見つめる。
「――――幻聴かな、はは、なっさけない」
「いやだなぁ、僕を幻聴にしないでよ」
芳晴さんの声が聞こえた後、天井が砂埃を巻き上げながら耳をつんざくような音を立てて落ちてきた。
「え、うわ!」
床にたまっていた水がはねて、思わず目をつむる。
「朔」
「え、えっ、う、わ…っ」
力任せに腕を引っ張られて、思わずあげた声が芳晴さんの唇に飲まれて消えた。背中に壁が当たって、抵抗する間もなく吐息すら奪われる。驚きと混乱で思わず引っ込んでいた舌を、入り込んできた芳晴さんの舌がからめとって、背筋がゾワリとした。
唾液が絡まって、聞いたことのない音が鼓膜を刺激する。
「っ、は、なに、」
「何じゃ、ないでしょ」
「芳晴さ…っ」
いつも綺麗に結われてる髪が乱れてて、服も少し汚れている。
「……心配した」
「ここ、どこ、ですか」
芳晴さんの体を押し離しながら聞くと、少し言いにくそうに表情をゆがめる。破られた天井のおかげか、僅かに入った光で芳晴さんの顔はよく見えた。
「…………………僕が、いた場所だよ。正確には、僕を閉じ込めるために両親が作っていた、もう一つの箱だ」
「芳晴、さんが?でも全然」
聞いた話と違う。そうつぶやけば「それはそうだよ」と芳晴さんは言葉をつづけた。
「ここを使われる前に、殺したんだから、当然だよ」
「芳晴さん?」
「ごめん朔、まさか、お前が狙われるなんて、思わなくて」
「俺をここに閉じ込めたのが誰なのか、知ってるんですか?」
首を傾げると、芳晴さんは目を伏せながら「うん」と言って、俺を抱き寄せた。そしてまた耳元で小さくごめんと呟くと、「お金」と小さくこぼす。
「お金を要らないって、言った相手。理由を聞かれた時、僕にはもう心に決めた人がいるんだって言ったんだけど、たぶん、それが原因。でも、安心して、みんな殺してきたから」
「―――――――――――は?」
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