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        ★  歩くと意外と距離があったらしく、マンションにつく頃にはもう朝になっていた。とりあえず部屋に戻って、びしょびしょになった靴を脱いで洗面所に向かう。芳晴さんは少しだけぼぉっとしながらついてきた。 「芳晴さん、顔洗って、着替えましょ?今、お風呂沸かしますから」 「…………うん」 「芳晴さん……?って、うわ、あっつ!え?」 なんだかぼやぼやしていると思ったら、芳晴さんの額がめちゃくちゃ熱くて素っ頓狂な声が出た。これはまずいと、とりあえず芳晴さんを引っ張ってリビングに戻り、ソファに座らせてから、カバンから画面が割られた携帯電話を取り出した。幸いにも画面が割れてるだけでまだ機能するのは助かった。そこから「鬼城」を探す。  俺は人間だから、俺が知ってる看病の仕方があっているのかわからないし、これはもうあいつに聞いた方が速い。  ――――――プルルルルと着信音が鳴って、相手が電話に出た。 『……もしもし』 「あ、鬼城?なぁ、お前の知り合いに医者っていないのか?」 『はぁ?なんで。普通に病院行ったら?』 心底面倒くさそうな声音にも構ってられずに、とりあえず芳晴さんが、と名前を出して、すぐにはっとした。そうか、知り合いじゃないとわからないのか。 『芳晴って、皇の?なにお前、あの皇と住んでんのか』 「説明はあとでするから、知らない?すごい熱なんだけど」 『あ―――――、わかった。ちょっと待ってろ』  ぶつりと切れた通話に一息ついて、ソファに座って目を閉じている芳晴さんの顔を覗き込んだ。真っ青だ。なんで、俺は気が付かなかったんだろう。 「芳晴さん」 「……………なんか、頭が、痛くて」 「うん、着替えられそうですか?」 「ふふ、心配しなくても、大丈夫、だよ」 汚れた服を脱がない事には、休もうにも休めない。芳晴さんはふらふらと立ち上がって、着替えるねと歩き出した。 「あ、待ってください。フラフラなんで手伝います」 「―――――――――うん」 差し出した手を掴んで、芳晴さんがありがとうと笑う。この人は、自分がつらくても笑うのか。  とりあえず、着替えを済ませてから芳晴さんをベッドに寝かせる。大丈夫ですか?と聞いても「大丈夫」と笑うから、それ以上何も言えなくて、リビングで着信を知らせる携帯に、少し離れますねと部屋を出た。 『……あぁ、出た出た。お前の部屋って五階だっけ?』 「うん」 『あぁ、ならすぐに行けるから』 よかった、大学で同じマンションに住んでるっていう話をしといて。あの時の鬼城の微妙な表情の意味はいまだに分からないけど、同じところに住んでるなら、すぐに連絡が取れる。 「朔?」 背後から弱弱しい声がして振り返ると、芳晴さんがリビングの入り口にもたれかかって立っていた。 「っ、芳晴さん、寝ててください」 「嫌だよ、寝たくない」 「だって、熱あるのに」 「大丈夫、勝手に治るよ。いつも、こんなものだから」 「だめです、今は俺がいるんですから、ちゃんと休んで、傍にいますから」  芳晴さんに足早により、体を支える。芳晴さんは俺の言葉に僅かに首を傾げてから、ふふっと笑った。 「よ、おはよ」  鬼城が部屋を訪れたのは、それから五分も経たないほど後だった。 「……おはよう」 金髪の、男。と言ったらそれまでだけど、左右で違う目の色に、少し襟足の長い髪。身長もそこそこ高くて、何より大学では「王子様」なんて言われてて、ファンクラブまである。  鬼城王史郎、こいつも、人ではない。 「んで?皇の僕は?」 「お前、芳晴さんの事知ってんのか?」 「もちろん。皇の管轄は百目鬼だけど、俺らも一枚かんでるから」 「難しい話ならいい。それで、どうすればいいの」 鬼城にそう聞けば、あぁ、とソファに座りながら入り口を指さした。 「兄貴が、医者だから」 トントンと、リビングの開きっぱなしの扉をわざわざノックして現れたのは、前髪で表情が分からない男の人だった。耳にかかる程度の赤い髪に、見え隠れするのは金色の瞳だ。 「こんにちは。部屋は?」 「え、あ、こんにちは。すぐ右の部屋です」 「そう」  そっけなく答えると、その人は迷いなく芳晴さんの部屋に入っていった。 「あれ、兄貴。無愛想だろ」 「似てないな」 「だろ?俺もそう思う。性格も真逆だしな」 けたけた笑いながら背伸びをして、さて、と鬼城が小さく息を吐いた。 「……とりあえず、お前、皇はめちゃくちゃ扱いづらいって話だけど、大丈夫なのか?」 「は?いや、なにその話」 鬼城が座るソファの横に立ち、見下げると、「ん~」っと鬼城が唸りながらだってなぁと言葉をつづけた。 「鬼城でも百目鬼でも手に負えないくらいの好戦的な性格してるだろ?あれは俺から見ても化け物だぞ」  化け物、とは。 「芳晴さんは性格は破綻してるけど、別に好戦的ではないよ?」 「………それはお前にだけだな。たぶん」 そうなのか。どう考えても好戦的に来られた記憶はないし、むしろ芳晴さんは激甘で我儘だ。 「大体、どうやって出会うんだ。あの人暫く行方くらましてたのに」 「――――――――――行方不明だったのか?」

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