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「?」
「あの、芳晴さんの事を知ってるんですよね?どうしてこの人は行方不明だったんですか?」
「………それは、本人に聞かないとだめ。俺からは言えないよ」
じゃあ、よろしくね。と言い残し部屋を去っていった戒さんを見つめながら、鬼城が口を開いた。
「………とりあえず、皇は鬼城と百目鬼の管轄だ。見つけたからにはしばらく監視対象になる。悪いけど、一緒にいる限りお前も対象だ。暫く不自由になると思うけどまぁ何もなければ一、二週間で解除されるだろうから」
「お前も人じゃないのに、芳晴さんと何が違うの?」
静かに眠っている芳晴さんの手を握り、その手を見つめながら問いただした言葉に、鬼城はため息を吐いた。
「…俺たちは人間を殺してはいけない。人間の命を奪うのはご法度だ。ただ、稀に皇の様に野に放たれたまま人間の世界になじめない奴らがいる。それを監視しなければ、生態系が狂っていくんだよ。例えば、人を喰うことを覚えてしまえば「人間は食料だ」と認識する奴らが増える。人間を喰うと、人の数は減り、俺たちのような化け物が量産していく。そうなると、生きていけないんだ。俺達は」
本能が勝ると、自我がなくなるから自活できなくなるんだ。と言葉を続けて、お前は、と付け足した。
「その人が好きなんだろう」
「は?」
好き?俺が?芳晴さんを?
「なんだ、違うのか?どう見ても好きだろ、お前」
「っ、ぅ、え?」
ぶわわっと顔に熱が集まって、鬼城が目を丸くしてけどすぐにおかしそうに笑った。
「自覚なしとかすげぇな」
「いや、だ、っだって、ほら、こう、なんか、さ」
「あはは、お前、マジで面白いな。とりあえず、俺も帰るわ。明日も休みだし、そいつの傍にいてやれよ」
わかった。としどろもどろになりながら返事をして、鬼城が玄関の扉を閉めるのを確認してからふと息を吐いた。
眠る芳晴さんに目を向けると、少しだけガラスの破片で切ったのか、頬に傷がある。散らばったガラス片は、不思議なことにベッドの周りには一つもなかった。
床が危ないから、少しでも片付けようかと握っていた手を離して、ほうきとちりとりを玄関まで取りに行く。なるべくガラス片をよけながら床を歩いて、寝室に戻りながら掃除をしていった。起きないだろうけど、細心の注意を払いながら作業を進めて、あらかた片付け終えてから芳晴さんの眠る寝室に戻る。
「意味わかんないくらい、綺麗な顔だな」
本当に、人形みたいだ。
★ ★
いつの間に眠っていたのか、目を覚ましたら窓の外が真っ暗になっていた。少しだけ風が冷たくて、芳晴さんにかける毛布を増やすか、俺の部屋で寝てもらうか迷っていると、芳晴さんがわずかに目を開いた。
「――――――――さく?」
「はい?大丈夫ですか?ここは寒いので、俺の部屋に行きますか?」
力のない声に、芳晴さんの手を握ると、僅かな力で握り返してくる。
「さく、ぼく………さくに何もしなかった?」
ごめんねと弱弱しく微笑んで、芳晴さんが体を起こす。
「……芳晴さん、」
「ぼく、言わなきゃ、いけなかったのに、いえなくて…」
またごめんねと小さくつぶやいて、俺は思わず芳晴さんを抱きしめた。まだ熱が下がっていないのか、抱きしめた体は熱くて、でも、思いっきり抱きしめた。
「………さく?」
「とにかく、休みましょう。ここ、窓ガラス割れてて寒いんで、俺の部屋で寝てください」
「――――――――さくもいっしょにいてくれる?」
「います。芳晴さんが起きるまで、ちゃんと傍にいますから」
歩けますか?と体を離しながら聞くと「うん」と答えて、ベッドから降りる。まだ少しふらついている体を支えながら、俺の部屋に向かった。
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