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「…………寝れそうですか?」
「うん」
俺のベッドに横になった芳晴さんに毛布を掛けながらベッド脇に腰かけると、あのね、と芳晴さんがつぶやいた。
「………………………僕、暗闇が嫌いなんだ。真っ暗で、自分が見えなくなるから。でも、朔がいるから、眠れるように、なったよ。少しだけど」
「はい」
「朔だけだったんだ、僕を「僕」だって、言ってくれたのは。だから、僕、ずっと一緒にいるなら、お前がよかった」
「……眠ってください。芳晴さん」
「………うん、おや、すみ…」
「おやすみさない。芳晴さん」
日曜日は、晴れていた。芳晴さんは朝までぐっすり眠っていて、先に起きた俺は芳晴さんがまだ眠っているのを確認してからお風呂を沸かした。玄関に脱ぎっぱなししていたずぶ濡れになっていた靴が渇いているのを確認する。昨日も今日も休みで助かった。
「よし」
自分の朝食もかねて、何か作ろうとキッチンに立った。芳晴さんは、何か食べる気力はあるのだろうか。とりあえず、お味噌汁だけでも作ろうと、冷蔵庫を開けて中身を確認した。
「シンプルに豆腐とわかめでいいかな。味噌もちゃんとあるし……俺は別にご飯と味噌汁でいいし、よし」
ひとしきり終えて、俺の部屋で寝ている芳晴さんを見に行くと、体を起こした状態で窓から外を眺めていた。
「芳晴さん?」
「―――――――朔、おはよう。ご飯、作ってたの?」
俺の声にすぐに振り向き、にこりと微笑む芳晴さんは、いつも通りだ。ホッと安心して、ご飯は食べられそうですか?と聞くと、「うん、大丈夫だよ」と返事をして、ベッドから降りた。確かに、昨日より顔色は悪くない。
「…………朔」
「はい?」
「ありがとう、傍に、いてくれたからよく寝れた」
「それなら、よかったです」
芳晴さんは俺がそう答えると、うん、と頷いてそれから嬉しそうにはにかんだ。
「お前はやっぱり、いい旦那様だね」
「そうですか?」
「うん。僕が言うから間違いないよ」
「それならよかったです」
そう答えて歩き出した俺の手を、後ろから芳晴さんがつかむ。
「朔?」
「なんですか」
「僕の事、好きになった?」
このタイミングで、その質問をしないでほしい。だって、本当に鬼城に言われるまで思いもしなかったんだ。確かに、最初から綺麗だったし、性格はあれだけど、それでも、毎日自分の為に何かをしてくれるような相手を好きにならないはずがなくて。
でも、どこが好きかと聞かれると、わからない。でも、離れたくないし、芳晴さんの為なら俺も何かしたいし、役にたちたいと思う。傍に居たいと、思ったんだ。
「……朔、言って」
ぎゅっと手を掴んで、芳晴さんがか細い声で俺に言う。
「………………………正直、どこが、とか、聞かれても分かりませんよ?ただ、芳晴さんの傍に居たいなって、思ってるのは確かです。昨日みたいに倒れたら焦るし、俺で何かできることがあれば、します。でも、これが芳晴さんの求めてる「好き」っていう感情なのか、俺にはわかりません」
「うん」
「でも、まぁ、離れたくは、ないです」
そう答えると、また、ありがとうと言って、芳晴さんが微笑む。あぁ、この人は、本当にきれいだ。
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