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「芳晴さん……?皇って」
「……僕のような血の鬼の事を〝皇〟って呼ぶんだよ。鬼より強い力をもっていて、とても危険だからって」
百目鬼の部屋を出てすぐにエレベーターに乗り込んで、部屋に戻った。芳晴さんはずっと険しい顔のままで、俺の手を掴んだままで玄関で立ち止まる。
「僕の血が、鴉じゃなくて人間なら、ここまで難しい話じゃないんだ。ただ、…………………例えば、天狗とか、とても数の少ない妖怪の血………と言えばわかる?」
「………ついていけないです」
「うん。だろうね」
僕だって、初めて聞いたときは意味が分からなかったよ。芳晴さんは俺の手を離し、靴を脱ぐとゆっくり話そうかとリビングに向かった。
「芳晴さんは、鴉系、って、」
「うん。僕に羽はないけど、弟は鴉の血の方が濃い。だからあの子も皇だけどおそらく知らないだろうね。あとは………僕が知るかぎりなら「龍」がいるよ」
「龍……?なんだかますます訳が分かりません。そんなにぶっ飛んでて大丈夫なんですか?」
ソファに座ると、芳晴さんがだよねと笑った。でもそうだな、と言葉をつづける。
「僕たちは異分子なんだ。例えば、鬼城、百目鬼、鬼灯が鬼の三大名家なら、皇、神名、神足が異分子に分類される」
「これ、歴史の授業ですか………ちょっとメモとってもいいです…?」
そう言うと、芳晴さんが笑いながらいいよと言ってくれた。良かった。笑ってくれる。いつもの芳晴さんだ。すぐ横の棚にあったメモ帳とボールペンを手にソファに戻り、芳晴さんの隣に腰かけた。
「えっと、三大名家……………この漢字ですか?」
「うん。そう。で、そうそう、合ってる」
「で、芳晴さんと、弟さんは皇?」
「そう。眞洋って、言うんだけど、眞洋は僕と同じ、もういるのかいないのかわからない鴉系の血。さっき言った「龍」の子も皇。神名は、神の血だよ。土地神、あとは、山の主とかその地域で一番大きな力を持つ妖怪が、神になる。神を名乗る。で神名。神足は、元が人間だったもの」
「だった…………?」
そう、と芳晴さんは指折り数えながら、そうだな、と続ける。
「憎しみで、鬼になる。鬼の血を飲む。自らを呪って、鬼に堕ちる。僕が知ってるのは、自らを呪って、周りも憎んで鬼に堕ちた人間」
自分も他人も呪うような出来事が、その人にはあったのだろう。それはきっと、俺には理解できない事だ。俺は、そんなに強くない。きっと、そんな状況になったら間違いなく死を選ぶ。
「僕は、………僕と眞洋は、特例なんだよ」
俺が書いたメモの皇と言う漢字を指でとんとんと叩いて、芳晴さんは自虐気味に笑った。
「鬼と、鴉。そして、僕と眞洋にはもう一つ、狐の血が流れてる。これが、鬼より上の理由」
「狐…………?」
狐、とメモ帳に書き足すと、芳晴さんがまじめだなぁと笑った。そりゃそうだ。講義でも受けてる気分だ。まじめにもなる。こういう話を聞いていると、芳晴さんと自分は本当に住む世界が違うんだなぁと思う。それでも、離れようとは思わないあたり、そろそろ俺も重症なのかもしれない。
「土地神に仕えていた、狐神の血だよ。狐が、鬼と恋に落ちて子をなして、その子が鴉と恋に落ちて生まれたのが僕と眞洋。そして実の親は人間によって殺されて、僕と眞洋は人間に拾われた」
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