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第31話
次の日、電車を乗り継ぎ、駅前の瀬戸物市にやって来た。
バイト先は「天心 堂」という瀬戸物屋さんだ。
駅につくと、「あっ!猫島佳純さんですか?」と青年がかけ寄ってきた。
年下だろうか。
茶髪に少し細身の体。
ジーパンにTシャツというラフな格好だけど、かっこいい子だった。
「猫島です。えっと、あなたは?」
「俺、矢島 清 です。俺も天心堂のバイトなんです。迎えに来ました」
「そうなんだ。ありがとうございます」
矢島くんは、ハキハキと話す爽やかな青年。
瀬戸物市に行く途中、彼が19歳の美術系の専門学生だっていうことと、夏休みの間の短期アルバイトしているという話をしてくれた。
「佳純さん、花屋さんなんですか!?すげー!俺もフラワーアレンジメント勉強してるんだ!」
「そうなんだ!良かったら遊びに来て」
花屋の場所を教えると、「俺の家の近くだ!ラッキー」とニコニコ笑った。
人懐っこいところは、ちょっと小野くんに似てるな。
駅前の大きな道路を歩行者天国にして瀬戸物市は開催されるらしい。
たくさんの店が集まって、カチャカチャと瀬戸物を置く音が聞こえる。
矢島くんは、瀬戸物市の中程にある「天心堂」という幟 を指差した。
「あそこです」
木製の棚に沢山の瀬戸物が置かれている。
花瓶や食器、土瓶なども置いてある。
膝くらいの高さにある小さな机にはお茶碗や湯飲みなどわりと小さめの瀬戸物が並べられている。
奥から40代くらいの男の人が出てきて、僕の顔を見た途端、「あー!君、獅子尾さんの紹介の子!?」とドタドタと近づいてくる。
……あんまりドタドタとくるので、並べた瀬戸物がガタガタと揺れる。
「ちょっと店長、割れる割れる!」
「あぁ……すまんすまん……ちょっと興奮して……でも、助かった……ここの瀬戸物市は人気だから俺と矢島くんだけじゃ大変でなぁ」
「猫島佳純です。よろしくお願いします」
僕がぺこりと頭を下げると、店長さんは「こちらこそ。店長の天童 です」と挨拶してくれた。
「早速で悪いんだけど、このエプロン付けてくれる?簡単な接客とレジをしてくれたらいいから。もし、小難しいこと言われたら、私が対応するよ」
ある程度、商品の簡単な説明をしてもらい、店に立つ。
9時を回った頃には、たくさんのお客さんが瀬戸物市に訪れていた。
おそらく瀬戸物が好きで見に来た人、興味本位で見に来た人、観光で見に来た人……そんな人たちが茶碗やら湯飲みやらを手にとっていき、眺めたり、使いやすさを確かめていく。
買う人って少ないのかなぁと思ったら、意外と買っていく人が多い。
「うちの店はリーズナブルなのと茶碗とか湯飲みのデザインが豊富なのが売りなんだ」
店長が言うように、湯飲みなんて渋い物もあれば、若い女の子でも使えそうな可愛いものまでたくさんある。
12時前、店長が他の店に少しだけ顔を出してくると店を少しの間離れた。
僕が矢島くんと店番をしていると、眼鏡を掛けた気難しそうなおじさんが棚の上の高そうなお皿をジロジロ眺めていた。
「そこの君」
「はい、何でしょう?」
おじさんに声を掛けられ、返事をすると、大きな皿を指差した。
それはこの店で一番高い品物だった。
「この皿は何故、こんなに高い値段がつけられているのかね?」
「え……あ、すみません……今、店長がおらず詳しい説明ができなくて……」
「何?君は店員じゃないのかね?」
「すみません……臨時のアルバイトで……」
「臨時のアルバイト?この店も落ちたものだな。アルバイトするなら、焼き物の価値くらい言えるようになりなさい」
あぁ……どうしよう、天心堂さんのイメージを下げてしまってる。
僕があたふたしていると、矢島くんが横からすっと来てくれて、「お客様」と声を掛けた。
「こちらの商品は、伊万里焼の貴重なお皿で、大きさも他の伊万里焼の皿よりもかなり大きなものなんです。特徴としては焼き方が……」
矢島くんのそつのない説明に、気難しそうなおじさんはうんうんと頷きながら聞いてくれている。
「なるほどな。よく分かった。ありがとう」
そのおじさんは買いはしなかったけど、矢島くんの説明には納得がいったらしく、他の店の方へ歩いていった。
「矢島くん、ありがとう!すごく助かったよ。すごい知識だね」
「専門学校の授業で焼き物の授業も取ってるんだ。それと説明は、店長がこの前別の客に説明してたの聞いてて、そのまま答えたんだ」
ニッと笑って答えてくれた。
それにしても堂々とした姿勢は年下とは思えなかったなぁ。
僕もしっかりしなきゃ。
店長が戻ってきて、12時を回った頃、「これください」と後ろから声を掛けられた。
振り向くと、望さんがお茶碗を持って立っていた。
「望さん!」
「佳純、手伝いありがとう。瀬戸物なんて扱ったことないから、困ったんじゃないか?」
「いえ!店長さんも助けてくれるし、矢島くん……同じバイトの子にも助けてもらえているので、大丈夫です!」
「そうか……良かった」
ほっとしたように笑う望さん。
不意打ちのように笑ってくるから、時々すごくドキドキする。
普段そんなに笑ってることないから、破壊力が……。
「あ、獅子尾さん」と店長が話しかける。
「今日は猫島くんを紹介してくれてありがとうございます!とても助かりました」
店長がお辞儀をすると、望さんも挨拶した。
前々から天心堂に通っていたこともあり、今回の件も店長が獅子尾さんに頼んだらしい。
「猫島くん、先に一時間休憩してきていいよ。その後、矢島くんにも休憩いってもらうから」
矢島くんも店長の後ろでうんうんと頷いてくれている。
お言葉に甘えて、僕は望さんとお昼ごはんを食べに行った。
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