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第33話

15時前にはお客さんも少なくなって、店じまいをし始めた。 売れ残った商品で高価な物は新聞紙に包んでいく。湯飲みやお茶碗も新聞紙に包み、箱の中へしまう。 「猫島くん、今日はありがとう。すごく助かったよ」 店長の天童さんが頭を下げて、お礼をいってくれた。 「いえ!僕は何も……こういうバイトは初めてだったから、いい経験になりました」 「もう、後は矢島くんと二人で片付けができるから大丈夫だよ」 「いいんですか?まだ片付けも残ってるし、手伝いますけど」 「いいよいいよ!それにほら、あそこで獅子尾さんが待ってるよ」 天童さんが指差す方を見ると、少し離れたところでどこかの店の壁に背を預けて立っている。 矢島くんがそれを見てニヤニヤしている。 「佳純さん!待ってる人がいるんだから、行かなきゃ!!」 「矢島くん……変なこと考えてない?」 「考えてませーん。あ、佳純さん、今度フラワーアレンジメントの課題があるんだ。お店、行ってもいい?」 「いいよ。いつでもお待ちしてます」 「やった!」と矢島くんは喜んでくれた。 僕もまた矢島くんに会えるの嬉しい。 天童さんと矢島くんに頭を下げて、その場を離れた。 「望さん、お待たせしました!」 「あぁ、お疲れ様」 望さんは車で来たらしく、近くの駐車場に停めていた。 僕も車に乗せてもらうと、「どこかでお茶にしよう」と望さんは車を走らせる。 しばらく走っていると、誰かが育てているのだろうかひまわり畑が見えた。 大きなひまわりが夏の風に少し揺れている。 「すごいひまわり畑!」 「少し見ていくか?」 車を端に寄せて、車から降りる。 うわ……広い土地にたくさんのひまわりが咲いてて、絶景だ。 「ひまわりにも種類があるのか?」 「ありますよ。このひまわりみたいに明るいレモン色のひまわりもあれば、オレンジっぽいものもあったり、あと赤紫のひまわりもありますね」 「赤紫……すごい色だな」 「あと、日本ではあまり見ないんですけど、白いひまわりもあります」 「白もあるのか……知らなかった。やっぱり佳純がいると、色々なことが知ることができるな」 望さんが僕に笑いかけてくれると、すごく胸がドキドキする。 初めは怖そうな人だと思ってたから、余計にそのギャップがあって……会うたびに望さんの新しい発見があって、楽しい。 「そろそろ行くか」 「はい」 このひまわり畑、また来年も一緒に見られたりするのかな。 近くのカフェでお茶をしていたら、もう日暮れになっていた。 夕ごはんも一緒に食べることになって、帰り道の途中の寿司屋さんに来た。 回らないお寿司屋さんなんて、初めてで緊張する。 カウンター席の座るのかなと思ったら、「少し話があるから」と座敷の部屋にした。 旅館のような畳の部屋に通され、机を挟んで座る。 話って、何だろう……。 仕事のことかな? 「佳純は寿司だと何が好きだ?」 「そうですね……タイとかエンガワが好きです……」 「じゃあ、まずはそれにしよう」 タイとエンガワを頼み、あとはお任せで盛り合わせを頼んだ。 こういう場所にも慣れてるんだろうな。 「仕事はどうだ?やっていけそうか?」 「はい。8月になったら、花が届くように手配しているので、大丈夫だと思います」 「何かあったら、すぐに相談してくれ。俺じゃなくても、高村や小野でもいいから」 「はい」 皆すごく心配してくれる。 嬉しいし、その分頑張りたい。 お寿司が運ばれてきた。やっぱり回転寿司とは違って、ネタのテリが違うような気がする。 素人だから、よく分からないけど。 「佳純」 出てきたお寿司に見とれていると、望さんに声を掛けられる。 持っていた鞄から、ハンカチが出てくる。 望さんには似合わない、というより大人には似合わない子供が好きそうなキャラクターが描かれたハンカチだった。 「今日は、これを返そうと思って」

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