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第35話(獅子尾目線)

昨日は緊張した。 昔の話を、しかも佳純が初恋の相手だと告白したのは、本当に緊張した。 『す、すみません!勘違いさせてしまって……!』 あの感じは、まだ俺が佳純のことを好きだとは気づいていないな。 まぁ、ちゃんと告白していないから、当たり前だが。 ぼんやりとしていると、第二秘書の松岡がドアをノックをして社長室に入ってくる。 「社長、おはようございます。本日の予定ですが……」 松岡はそつなく予定を報告し、松岡が用意したお茶を飲みながら、その報告を聞く。 いつもはだいたい高村がするのだが、今日は有休を取っている。 「……以上が本日の予定です」 「分かった。ありがとう」 「社長」 松岡の黒いフレームの眼鏡がキラリと光った気がした。 そのレンズの奥は変わらず冷静な黒い瞳だ。 「猫島さんとは、どこまで進んでいるのですか?」 俺は飲んでいたお茶を思いっきり吹いた。 おまけに変なところに入って、苦しい。 「おま……っごほ……!急に……なん……っ!!」 「いえ、今日はとても機嫌が良さそうなので、進展でもあったのかと」 松岡は表情や抑揚を変えずにそう言うが、俺は気管に入ったお茶に苦しむ。 少し落ち着くと、「機嫌なんか良くない!普通だ!」と強めに言うが、松岡には効果がないらしく、表情は変わらない。 「そうですか。残念です」 本当に残念だと思っているのか。 「もうハンカチを返せたのかと思っていました」 こいつ、どれだけ勘が鋭いんだ。 「お前……どんだけ知ってるんだ。佳純のことを」 「高村さんから聞いた程度しか知りません」 あのおしゃべりめ。 「そもそも、佳純と俺がどうこうなったところで、お前には関係ないだろ」 「いいえ。どうこうなったら、私はとても幸せですし、仕事のモチベーションもガンガン上がります」 無表情でそんなことを言ってくる松岡。 普段はモチベーションが低いってことか。 低くても、一定以上の仕事量をこなしているから、文句は言わねぇが……。 「私の中では、ヘタレ敏腕社長×花屋の薄幸美人系青年の図式が出来上がっているので。それでは失礼します」 松岡は一礼して、秘書室に戻っていった。 図式? その『×』って何だ? ヘタレ敏腕社長って俺のことか? 花屋の薄幸美人系青年が……佳純のことか? まぁ、美人だと俺も思うが。 「どうこう……なれるのか?」

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