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第37話

パーティーの日が近づいてきた。 8月6日の午前中、いつも取引をしている花の卸売業の店から花が届いた。 「お待たせしました~!ピンクのバラ500本と、白と黄色のガーベラ300本、カスミソウ300本、グリーン200本……で良かったですかね?」 「はい!お疲れ様でした。ありがとうございます」 大量の花。 こんなにたくさんの花を発注したの、いつぶりだろう。 「佳純さーん!おはようございまーすって……すご!!」 小野くんが来て、あまりの花の多さにびっくりしている。 ……びっくりするよね。僕もちょっと圧倒されてる。 「これから仕事するから、小野くんも手伝ってくれる?」 「もちろん!」 花をそれぞれ、バケツに生ける。 夏場は太陽が出ている時間が長いから、すぐに花が咲ききってしまう。 だから、今は太陽にあまり当たらないように日陰で作業する。 (もう少ししたら、君たちの一番キレイな姿をたくさんの人に見てもらえるからね) そう花たちに心の中で、声を掛ける。 時々、口にも出してるみたいで、小野くんにからかわれるんだけど。 「……佳純さん、また花に話しかけてるでしょ?」 「え!?声に出てた!?」 「出てないけど、顔に出てた」 小野くんは笑いながら、カスミソウを大きなバケツに生ける。 「それにしても、こんなにフラワーアレンジメントに使うんだ。あの花園って人」 「すごい量だよね。会場のあちこちに飾るみたい」 花を生け終わると、大仕事であるバラのトゲを取る作業に移る。 今日も通常通り店は開けているので、小野くんと交代しながら、バラのトゲを取る。 トゲ取りの道具があるので、それをトゲに引っ掻けて、取る。 500本なので、骨が折れるけど、キレイに取らないとアレンジメントする人の手を傷つけてしまうかもしれない。 もし、トゲが残ってたら、花園さんに何て言われるか……。 店の奥で作業をしていると、「こんにちは~」と元気な声が聞こえる。 矢島くんだ。 「お~、清!いらっしゃい!」 「淳也くん!店番?佳純さん、いる?」 僕を探しているらしいので、一旦作業を止めて、店に戻る。 「いらっしゃい。矢島くん」 「あ!佳純さん、フラワーアレンジメントのデザイン出来たんだ!見てみて!!」 スケッチブックには、ひまわりとオレンジのバラが描かれている。 メインはひまわりらしく、エネルギッシュな感じで明るいアレンジになっている。 「矢島くん、絵上手だね。それに、明るい感じが夏っぽい!」 「夏っぽいんだけど……何か足らないような気がして……」 矢島くんはまだ納得いってないみたいだ。 これはこれで素敵だと思うけどな。 「店の花、見ててもいい?」 「どうぞ。何か思い浮かぶといいね」 矢島くんは店内の花を見ながら、真剣に考えている。 矢島くんが真剣に考えている姿は、いつもの明るくて人懐っこい感じとはまた違って、きりっとした感じでかっこいい。 こういうギャップに惚れる人もいるんだろうな……。 ギャップといえば、望さんだ。 望さんは普段仕事に対して厳しそうな感じがするけど、プライベートは穏やかで、すごく優しい。 今、エプロンについているボールペンも『お守りだ』と渡してくれたし。 時々見せる、あの笑顔にすごくきゅんきゅんしてしまう。 女の人だったら、即落ちちゃうんだろうな。 「佳純さん」 矢島くんに声をかけられて、はっとする。 仕事中に考え事してた。 「何か思い付いた?」 「ぜーんぜんダメ!思い付かないやー」 「そっか……」 「何か単純作業してるときだと、色々思いつくんだけど……」 単純作業か……あっ! 「あの、良かったらなんだけど……手伝ってほしいことがあって」 矢島くんを店の奥に連れていき、大量のバラの花を見せた。 「何このバラの量!何本あるの?」 「500本」 「500本!?何でこんなに??」 契約している結婚式場に飾られる花で、花園さんがフラワーアレンジメントに使うことを説明する。 矢島くんは花園さんを知っているらしい。 「あー、花園さんって、前に学校の特別講義に来てくれたよ。……ほとんど自慢話だったけど」 「そ、そうなんだ」 「このバラのトゲを取るの?」 「そうそう。小野くんと交代でしてるんだけど、なかなか終わらなくて……バイト代は塩羊羹しか出せないんだけど……」 さすがに断られるかな。 塩羊羹でつられないよね。 「え!?あれめっちゃうまかったし、やるやる~!それにこういう単純作業、大好きっ」 見事に釣られてくれた矢島くんと、僕と交代でバラのトゲを取りをしてくれている小野くんに麦茶と塩羊羹を出して、僕は店に戻った。 なんとか、夕方までには終わりそうだ。

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