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第38話

「終わったー!」 最後の一本のトゲを取り終わり、バケツに移した。 「小野くんも矢島くんもありがとう。すごく助かったよ」 もう陽が暮れかかり、空は青からオレンジへ変わり、グラデーションのようになっていた。 矢島くんは空を見上げて、「青とオレンジ……あぁ!!青だ!!」と叫んだ。 あまりの大声に僕と小野くんはびっくりしたが、矢島くんは満面の笑みで僕たちの方を見た。 「青い花が足らなかったんだ!あー!この時間まで手伝いさせてもらって良かったぁ!!さっそくデザイン画描かなきゃ!!佳純さん、淳也くん、ありがとう!!じゃあねー!!」 早口でそれだけ喋ると、僕の返事も聞かずに、走り去ってしまった。 僕と小野くんは呆気にとられたまま、店の前に立ち尽くしていた。 矢島くんの後ろ姿を見送ったあと、小野くんと一緒に店の隣にある車庫に行き、軽トラックの荷台へバケツに入った花を積み込む。 台車は向こうで貸してもらえるみたいだから、新聞紙と園芸用のハサミをいくつか一緒に入れておいた。 「……よいしょっと!これで全部だね」 「うん!明日は俺、そのまま式場にいるね」 小野くんは明日、式場から運搬の手伝いをしてくれるらしい。 力仕事なので、すごく助かる。 「お疲れ様。今日はたくさん雑用ばかりさせてごめんね」 「いや、佳純さんの助けになれたんなら、俺嬉しい。花のこと、詳しくないから、こういうことしかできないし」 「ううん……十分だよ。ありがとう」 「あ!あと、これ。さっき店の前に落ちてたよ」 それは望さんからもらった大事なボールペンだった。 「落としちゃったのかな?ありがとう。明日は大事な日だから、持っておかなきゃ」 『お守り』だから。 クリップのところにあるクローバーを指でなぞった。 明日、頑張ろう。 ―――― 虫も静かに眠る真夜中。 二つの影が、フラワーショップ猫島の前に現れた。店のシャッターは下りており、二つの影、……二人の男たちは店の前で中の様子をうかがっていた。 どうやら、店主の青年はもう休んでいるためか、二階も真っ暗だ。 男たちは、店の隣の車庫に忍び込んだ。 一人が車庫のシャッターを静かに開けて、もう一人が自分達が乗ってきたトラックから両手に抱えるくらいの花束を取り出す。 その花束を軽トラの荷台に乗っているバラと入れ換えた。 男たちは、素早くその仕事を終えると、車庫から抜け出し、自分達のトラックに乗って走り去っていった。 ―――― 〈小野目線〉 マンションの一部屋に、俺と池村……池ちゃんが住んでいる。 池ちゃんは最近、忙しそうにパソコンに向かって、何かやっている。 「池ちゃーん、ただいまぁ」 池ちゃんはパソコンから目を離さずに、「おかえり」と言った。 周りには宅配ピザの箱が大量に折り重なっている。 「またサイバー攻撃?」 「サイバー攻撃は一回だけだった。これはまた違うやつ」 池ちゃんはとぼけた顔して、実は天才だ。 自分ではそんなこと思ってないみたいだけど、パソコンの画面には、訳の分からない英語やら記号がたくさん流れている。 俺はポケットからボールペンを取り出す。 クリップの部分にクローバーのマークがあるボールペン。 ……社長が佳純さんにプレゼントしたボールペンだ。 「これ、もっと長持ちしないの?」 俺はブーブー文句を言っていると、池ちゃんはピザを頬張りながら、ボールペンを受け取った。 どうでもいいけど、その手、綺麗なんだろうな。 「小型だから、2、3日で充電がもたなくなる。だから、こまめに交換しなきゃ」 「社長も、マジで心配性だよね。こんなことまでしてさ」 「……好きなんだから、仕方ない」 池ちゃんに相変わらずの無表情で、そう返された。 まぁ、気持ちは分かるけどね。 俺は明日に備えて寝ることにした。 明日も無事に一日が終われば良いけど。

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