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第39話
6時に目覚ましが鳴る。
夏は朝日が昇るのが早くて、嬉しい。
朝のうちは涼しくて、顔を洗う水も気持ちよくて好きだ。
朝御飯を済ませて、少しだけゆっくりしていると、電話が鳴った。
「あっ、もしもし」
『あ、佳純くんですか?高村です。おはようございます』
久しぶりに高村さんの声を聞いた。
最近は望さんが花を買いに来てくれるから、高村さんに会うことが少なくなってしまった。
「おはようございます。今日の運搬のことですか?」
『はい。結婚式場の裏口……関係者用出入口があるので、そこにお花を届けてもらってもいいですか?』
「大丈夫です!小野くんも先にそちらに行くみたいなんですけど……」
『小野くんには、私から伝えてあります。佳純くんが着く頃には、裏口で待っててもらえていると思います』
さすが、高村さん。
手際がいいな。
「分かりました。ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」
『こちらこそ、よろしくお願いします。それでは、失礼します』
「はいっ!失礼します」
僕は電話口で軽くお辞儀をして、電話を切る。
電話ってついつい目の前に誰もいないのに、お辞儀とかしちゃうんだよね。
僕は紺色の店のエプロンを付けて、軽トラに乗り込み、エンジンを回した。
車で30分、教会のような建物が見えてきた。
裏口から入ってほしいと言われたため、裏口に回る。
裏に回ると、見慣れた金髪が見えた。
向こうも気づいたらしく、手をあげてくれている。
僕が駐車すると、小野くんが「佳純さん!おはようございまーす」と走ってきてくれた。
「おはよう、小野くん。どこに置いたらいいのかな?」
「あの入り口から真っ直ぐいったところに、広いところがあるんで、そこに置いといてほしいって。台車も二台持ってきた!」
軽トラの荷台から、花を生けたバケツごと台車に乗せた。
小野くんの案内で、広間の方に行くと、高村さんとウェディングプランナーの手塚さん、それから花園さんが待っていた。
「すみません、お待たせしました」
「いえいえ。お疲れ様です」
「おはようございます。わぁ、すごいお花ですね」
高村さんと手塚さんが笑顔で出迎えてくれたのと対称的に、花園さんは少し怒っているような感じがする。
「花がないと、私、アレンジメント始められないんですけど」
「あっ、すみません……」
あぁ、やっぱり怒ってる……約束の30分前には来たんだけどな。
そんなギクシャクした雰囲気を変えるように、手塚さんは「まぁまぁ」と花園さんを宥めた。
「こんなキレイな花たちを上手く生かせるのは花園さんだけなんですから、よろしくお願いしますよ」
「まぁ、それが私の仕事なんで」
手塚さん、すごく上手に宥めてるなぁ。
助かった……。
「それじゃあ、花を出してちょうだい」
「はいっ」
僕は新聞紙を広げて、バラを取ろうとしたその時、指先に痛みが走った。
「痛っ!」
「佳純さん!?大丈夫?!」
小野くんが駆け寄ってきて、僕の指を見ると、驚いた顔をした。
トゲが刺さっていた。
「な、何で……トゲが?全部処理したはずなのに……」
小野くんは、慌てて他のバラを見てみると、すべてのバラにトゲがあった。
それを知った花園さんは、冷たい声で「どう言うこと?」と僕に詰め寄った。
「私、バラのトゲは全て処理してといいましたよね?」
「昨日、ちゃんと処理しました!でも……何故か今日トゲがついてて……」
確かに昨日処理したのだ。
どうして、こんなことに……。
「俺もちゃんと処理した!」
僕と花園さんの間に割って入るように、小野くんが証言してくれた。
「じゃあ、どうしてトゲが残ってるの!?それに、この花の量、どう見たって、私が頼んだ花の量じゃないわ!」
「え!?いや……ピンクのバラ500本と、白と黄色のガーベラ300本、カスミソウ300本、グリーン200本……でしたよね?」
はぁ……と花園さんは大きなため息をつく。
「ちゃんと聞いてたの?私は、バラ300本、白と黄色のガーベラ200本、カスミソウ200本、グリーンは100本って言ったのよ?」
「ええ!?ちょっと待ってください……僕、ちゃんと確認しましたよね?その時、何も言わなかったじゃないですか……!」
おかしい。
カフェでデザインを見ながら花の本数を聞いたときに、ちゃんと復唱して確認したのだ。
それなのに、こんな言いがかりをされて……そんなにこの人は、僕のことが嫌いなのだろうか。
「……今日は帰るわ」
花園さんは一言、そう言って持ってきた荷物をまとめ始めた。
僕以外の他の人たちは、何がどうなっているのか分からないという風に呆気にとられている。
「猶予をあげます。明日までにバラのトゲ、全部処理して、余った花は猫島さん、あなたが何とかしなさい」
それだけ言って、花園さんは立ち去ってしまった。
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