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第41話
花を配るという案を電話で高村さんに伝えると、「いいアイデアですね。さっそくリボンや包装用のビニールを用意しますね」と言ってくれた。
「リボンなら、お店にも……」
「いえ、すぐ買いに行けますから。買ったら、そちらに向かいますね」
何だか申し訳なかったが、取りに行く手間がなくなったお陰で、花を分けておく時間ができた。
暫くして、高村さんがリボンと包装用のビニールを持ってきてくれた。
リボンはピンクや白、水色など、女性が好きそうな淡めの色を選んでもらって、ビニールは縁にレースの印刷がされている。
「よし、始めましょう」
バラとガーベラ、カスミソウとグリーンを合わせていく。
普通のアレンジメントよりも簡単なので、矢島くんたち専門学生と小野くん、池村くん、なんと高村さんも手伝ってくれた。
矢島くんたち専門学生は、さすがと思える早業であっという間に小さな花束を作っている。
小野くんと高村さんは、僕が見本を見せるとすぐにコツを掴んだらしく、綺麗に作ってくれた。
……しかし、池村くんは、
「ぐちゃぐちゃ……」
池村くんは、少しシュンとしながら、僕に花束を見せてくれた。
ビニールは何度も巻き直したせいで、跡がついてしまい、リボンもヨレヨレだ。
「不器用で……ごめんね……」
「だ、大丈夫!僕と一緒に作ろう!!花をビニールの上に乗せてくれたら、僕が巻いて、リボンで結ぶから」
池村くんと僕の共同作業で、花束作りもあっという間に終了した。
花束は100本できたため、パーティーに参加してくれる先着100名の女性客に配ることにした。
あとは高村さんが手配してくれるとのことだった。
あ、花束用のオアシスだけ、持ってこなきゃ。
ちなみにオアシスというのは、水を含ませたスポンジのようなもので、そのスポンジに花を挿しておくと長持ちするのだ。
スポンジを挿すだけなら、僕だけでもできるので、たくさんたくさんお礼を皆に言って、解散してもらった。
大人数で頑張ったお陰で、夕方までに全部が終わった。
掃除だけ皆でして、花束は切った部分が乾かないよう、霧吹きだけしておく。
僕はすぐに店に戻ろうと、裏口から出ると、道路を挟んだ向こう側に、花園さんと手塚さんが何やら話していた。
花園さん……怒って帰っちゃったと思ってたのに……しかも手塚さんと何を話してるんだろ。
仕事のこと、だよね?
少し疑問に思ったけど、早くオアシスを持ってこないと花が傷むと思い、軽トラに乗った。
会場に戻ると、誰もいなかった。
今日はたくさん手伝ってもらったなぁ。
後は自分一人でも大丈夫だ。
小さく切った花束用のオアシスを水に浸す。そして、ヒタヒタになったオアシスに花束の花を挿していく。
見た目があまりよくないし、水でベタベタなのでアルミホイルで包む。
これの繰り返しだ。
矢島くんと同じく、僕も単純作業は好きだ。
集中していると、自分の世界に入ってしまう。
……僕は誰かが近づいてきていることに気づかなかった。
――――
〈獅子尾目線〉
自分の仕事が夕方には一段落し、佳純たちの様子を見に行くことにした。
式場に向かい、広間に行くと、佳純が床に座りながら、黙々と作業をしていた。
集中しているらしく、俺が近づいても気づかない。
「佳純」
肩を叩いて、呼び掛けると、びくりと体が跳ねた。
「あ……望さん」
「大丈夫か?佳純。大変だったな」
「いえ……ごめんなさい。予定を一日遅らせてしまいました」
そんな事、気にしなくても何とかなるんだが……。
「気にするな。花園が勝手に遅らせたんだ」
俺がそう言いながら、床に座ると、佳純は慌てたように「ス、スーツが汚れます!」と言ってくれたが、俺は構わなかった。
「これを挿していけばいいのか?」
「え!?いや、僕一人でも……」
「手伝わせてくれ。本当は始めから手伝いに行きたかったが、時間が取れなくてな」
「そ、そんな……望さん、社長さんだから忙しいのに」
俺は花束を取って、スポンジのようなものを挿した。
水に浸してあったから、掴むと水がじわりと出てくる。
「これで、いいんだろ?」
「は、はい……じゃあ、僕はアルミホイルで包みます」
流れ作業で、挿した花束を佳純に渡していく。
その途中、佳純の手が視界に入った。
手荒れで、少し赤みを帯びている。
「佳純、手が……」
「あっ」と佳純は手を引っ込める。
「すみません。汚い手を……。花屋は水をよく扱うから、手荒れしやすいんです……」
「汚い手じゃない」
俺は佳純が引っ込めた手を握る。
佳純は真ん丸な目で俺を見つめ、ただただ俺に手を握られていた。
「望さん……?」
細い指。
俺のゴツい手とは違い、繊細な指先。
この指先で、いつも花を選んでくれる。
嫌なことがあっても、挫けたり、嫌な顔をせずに花屋を営んでいる佳純は、すごい。
今回のことも花園が仕掛けたことなのに、泣き言を言わずに仕事をしている。
そのうつ向かない姿勢が、とても愛しい。
「佳純……」
俺は佳純を引き寄せ、自分の唇を、佳純の唇に重ねた。
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