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第42話
あ、あれ……?
今、どういう状況??
とても、望さんの顔が近い気がする。
……っていうか、近い!!むしろ、距離がない!!
暫くされるがままキスされる。
唇が離れたとき、望さんの熱い息を感じた。
「……っあ、望さん……今……」
見つめあい、望さんはトロリとした目をしていたけど、だんだん自分が何をしたのか自覚してきたらしく、顔がボッと火がついたように、赤くなった。
「………っ!!佳純、すまない……!!」
望さんは勢いよく立ち上がり、走り去って行った。
取り残された僕は、唇を触ってみた。
思った以上にキスって、柔らかくて、あたたかかった。
実は、初めてのキスだ。
今まで、いい雰囲気になった女の子はいたけど、そこまでの関係にはならなかった。
別にいなくても困らなかったし、焦りもなかった。
キスをしてきたってことは……つまり、好意があるってこと、だよね?
待って、でも、僕は男だし……いや、同性愛の人もいるし……。
好意以外で、キスする理由って何だろう。
外国だったら、挨拶とかかな。
唇にする?ほっぺとかじゃなくて?
それにさっきの雰囲気で、いきなり挨拶って……無いな。
あとは、会話の流れでいくと、僕の手が荒れてて、「汚くない」って言ってくれて……キスされたんだっけ。
ここから導き出せる答えは……、
『慰め』?
そうか。慰めてくれたのかな。
花園さんに謂れのないクレームをもらって、残業して、さらに手まで荒れてて。
望さんは社員思いの優しい社長さんだ。
この前も小野くんと池村くんの食費の事を心配してたし。
うん。慰めてもらったんだ。
そう思うようにしよう。
でも、もし、好意だったら……僕は、どう受け止めよう……。
普通に接することができるかな?
キスの一件は、個人的に脇に置いておけない大きな事案だけど、今はパーティーのことだけを考えよう。
気を抜けば膨らみそうな大きな事案を必死に押し込めながら、オアシスを花束に指していった。
――――
〈獅子尾目線〉
やってしまった……。
柔らかい唇の感触が、まだ残っている。
佳純は、気づいただろうか、俺の気持ちに。
さすがに気づいたかもしれない。
本当は、しっかり気持ちを伝えて、デートをして、キスをして……それ以上は、まだ早いな。
佳純の姿が愛しすぎて、早まった行動を取ってしまった。
式場の外で、落ち込んでいると、「何、百面相しているんですか?」と高村に声を掛けられた。
俺は、うっ……と言葉に詰まる。
説明したら、絶対高村に軽蔑の目で見られ、罵声を浴びせられそうだ。
「望も佳純くんに会いに来たんでしょう?これ、渡しに行くんで、一緒に行きましょう」
高村はコンビニで買ってきた飲み物とサンドイッチを見せる。
差し入れらしい。
あぁ……15分くらい前の俺なら嬉々として佳純に差し入れを渡しに行っただろう。
でも、今はできない。
「いや……俺は、帰ろうと思って……」
高村は何か勘づいたように、ノンフレームの奥の瞳を光らせる。
「……何か、あったんですか?」
下手に言い訳するんじゃなかったと後悔した。
高村に、嘘は通用しない。
その明晰な頭で見破られてしまうからだ。
さらに、俺は嘘が得意じゃない。
仕事での嘘はいくらでもつけるし、高村のバックアップがあるから問題ないが、プライベートでの嘘は全くダメだ。
始めはひた隠しにしていた佳純への恋心は、すでに周りにバレている。
気づいてないのは、佳純くらいだ。
唯一、騙せていた佳純にも、もうバレてしまっただろうが。
「何、したんですか?」
ニコニコとしているが、周りの気温がぐっと下がったような気がする。
俺は、白状するしかなかった。
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