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第43話(高村目線)

「……それで、勢い余ってキスしてしまったと」 望は昔から嘘が下手だ。 というより、嘘がつけない。 ビジネスでは、私がフォローできるし、基本望は短く返事しかしないから、相手側からしてみたら「こいつ何考えてんだろう」と思われているだろう。 こんな性格でよく社長なんかやっているもんだと思うし、極道の若頭なんかやってるな。 私が問い詰めると、大きな体を縮こませ、小さく頷く。 「ケダモノだな」 つい、仕事の感覚が抜けて、敬語が抜けてしまったが、そう言われても仕方がないことを望はした。 「……今日は、帰る」 望は短くそう返事すると、トボトボと駐車場へ行ってしまった。 全く……本当に佳純くんが絡むとヘタレになるんだから。 いや、今回は大胆になりすぎか。 ケダモノは放っておいても特に問題ないだろうが、佳純くんは大丈夫だろうか。 式場の広間に向かうと、一人床に座って、作業している佳純くんを見つけた。 「佳純くん」と話しかけると、ビクリと肩を震わした。 振り向く佳純くんの顔は、ほんのりピンクになっている。 あぁ、本当にキスしたんだな、あのケダモノは。 「残業、お疲れ様です。差し入れを持ってきました」 何も気づかなかったふりをして、とりあえず差し入れを渡す。 「あ、ありがとうございます……卵のサンドイッチ、僕好きなんです」 まだ少しぎこちない感じで話しているが、好きなものを見て、少し安心したらしい。 最後の花束にオアシスを刺し、作業は終わった。 佳純くんは椅子に座って、サンドイッチを開け、一口かじる。 「……社長、ここに来ましたか?」 「え!?の、望さん……ですか?……えっと、あの」 佳純くんはかなり狼狽している。 佳純くんも嘘がつけないタイプの人間だ。 すぐ態度に出る。 「さっき、入り口で見かけたので、佳純くんに会いに来たのかなと思ったんですが……急な仕事でも入ったんですかね」 佳純くんをいじめすぎるのも可哀想なので、逃げ道を作って、話題を終わらせた。 「あの、望さんって……子供の頃とか、どんな人でしたか?」 「え?」 「高村さんは幼なじみなんだって、前教えてもらったんです」 「そうですか……。望は不器用だけど、真っ直ぐな人です。こうと決めたら、それに向かって一直線です。あの外見なので怖がられてばかりです。けど、好意をもった相手には、優しいと思います」 「好意をもった相手……」 佳純くんはまた頬がほんのりピンクに染めた。 「僕も、望さんが優しいのは分かります……あれもきっと、慰めでしてくれたことなんだろうし……」 んん?ごにょごにょと言っているけど、あれっていうのは、キスのことだろう。 けど、慰めとはどういうことだろうが。 「花園さんのこととか、僕の手荒れのことを思って、さっき望さんが慰めてくれたんです」 望は慰めじゃなくて、愛しさからキスしたんだと思うんだけど……佳純くんは慰めだと思っているみたいだ。 「慰めですか……」 ここで、望はあなたが好きなんですよと言うのは簡単だが、私が言っては意味がない。 望には成長してもらわないと。 「社長は、優しい社長ですからね」 望、佳純くんはなかなか手強いですよ?

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