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第45話

花園さんの様子が気になったため、僕もそっと彼女の後を追った。 廊下の影から彼女の様子を窺うと、突き当たりの鉄の扉を開けて入っていった。 鉄の扉は重たく、ぐっと力をいれないと開かない。 こんな所に何の用事があるんだろう。 花園さんの様子が気になった僕は、その後を追った。 その扉を開けると、薄暗い廊下が続いており、地下へ続く階段があった。足音に気を付けながら、その階段を降りると、突き当たりにさらにドアがある。 そのドアの上部はガラスになっており、チカチカとした光、それからテレビ画面のようなものが見える。 僕はそっと、そのガラスの所に近づいてみると、パソコンがいくつか並んでおり、中央の大きな画面のパソコンがある。 花園さんはそのパソコンに近づき、スーツのポケットからUSBを取り出し、パソコンに挿した。 (何をしてるんだろう……) その様子を窺っていると、誰かに後ろからハンカチで無理やり口を押さえられる。 抵抗したが、それも空しく僕はその場に倒れ込んだ。 僕の意識は、ここで途切れた。 ―――― 「誰!?」 コンピューター制御室の外から物音がした。花園がドアの方を睨むと、ドアが開き、スーツの男が立っていた。 「清二……」 清二とは花園の恋人であり、パトロンであり…… そして、ヤクザでもある。 清二の足元には、花屋の青年が倒れていた。 花園はその状況を見て、一瞬で何があったのか分かった。 「清二、あなた……」 「好奇心は身を滅ぼす。そのまま帰ってたら、この人もこんなことにはならなかったのにね。薫、ちゃんとできた?」 「今からよ。これを挿して、データを取ったら完了よ」 「そっか。じゃあ、この人は俺が何とかするから、頑張って」 清二は、にこりと優しい笑顔を花園に向けた。 薫はこの笑顔に弱い。 性格がきついと言われ、付き合ってきた男にはフラれてばかり。 仕事も清二に会うまでは泣かず飛ばずで、経済的にもキツかった。 そんなドン底の時に出会ったのが、清二だった。 弱りきっていた花園に「こんな素晴らしい才能を腐らせるなんて、そんな事できない。あなたを援助させて」と申し出てくれたのだ。 援助をしてもらい、いつしかお金だけではない……愛すべき存在になっていた。 ヤクザだと知った時でも、そんなことどうでもいいと思った。 そして、敵対組織であるこの会社に潜入してほしいと頼まれた時は、すぐに「やる」と返事をした。 (彼のためなら、何だってしてやる) 清二が、青年を背負って出ていくと、花園はパソコンにUSBを挿し、システムを立ち上げる。 いくつか選択肢が出て、「OK」を押すと、データをUSBに移すことができた。 このデータが欲しいと、清二が言っていたのだ。 このデータがさえあれば……。 花園は、USBを引き抜き、急いでコンピューター制御室を離れた。

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