49 / 79
第45話
花園さんの様子が気になったため、僕もそっと彼女の後を追った。
廊下の影から彼女の様子を窺うと、突き当たりの鉄の扉を開けて入っていった。
鉄の扉は重たく、ぐっと力をいれないと開かない。
こんな所に何の用事があるんだろう。
花園さんの様子が気になった僕は、その後を追った。
その扉を開けると、薄暗い廊下が続いており、地下へ続く階段があった。足音に気を付けながら、その階段を降りると、突き当たりにさらにドアがある。
そのドアの上部はガラスになっており、チカチカとした光、それからテレビ画面のようなものが見える。
僕はそっと、そのガラスの所に近づいてみると、パソコンがいくつか並んでおり、中央の大きな画面のパソコンがある。
花園さんはそのパソコンに近づき、スーツのポケットからUSBを取り出し、パソコンに挿した。
(何をしてるんだろう……)
その様子を窺っていると、誰かに後ろからハンカチで無理やり口を押さえられる。
抵抗したが、それも空しく僕はその場に倒れ込んだ。
僕の意識は、ここで途切れた。
――――
「誰!?」
コンピューター制御室の外から物音がした。花園がドアの方を睨むと、ドアが開き、スーツの男が立っていた。
「清二……」
清二とは花園の恋人であり、パトロンであり……
そして、ヤクザでもある。
清二の足元には、花屋の青年が倒れていた。
花園はその状況を見て、一瞬で何があったのか分かった。
「清二、あなた……」
「好奇心は身を滅ぼす。そのまま帰ってたら、この人もこんなことにはならなかったのにね。薫、ちゃんとできた?」
「今からよ。これを挿して、データを取ったら完了よ」
「そっか。じゃあ、この人は俺が何とかするから、頑張って」
清二は、にこりと優しい笑顔を花園に向けた。
薫はこの笑顔に弱い。
性格がきついと言われ、付き合ってきた男にはフラれてばかり。
仕事も清二に会うまでは泣かず飛ばずで、経済的にもキツかった。
そんなドン底の時に出会ったのが、清二だった。
弱りきっていた花園に「こんな素晴らしい才能を腐らせるなんて、そんな事できない。あなたを援助させて」と申し出てくれたのだ。
援助をしてもらい、いつしかお金だけではない……愛すべき存在になっていた。
ヤクザだと知った時でも、そんなことどうでもいいと思った。
そして、敵対組織であるこの会社に潜入してほしいと頼まれた時は、すぐに「やる」と返事をした。
(彼のためなら、何だってしてやる)
清二が、青年を背負って出ていくと、花園はパソコンにUSBを挿し、システムを立ち上げる。
いくつか選択肢が出て、「OK」を押すと、データをUSBに移すことができた。
このデータが欲しいと、清二が言っていたのだ。
このデータがさえあれば……。
花園は、USBを引き抜き、急いでコンピューター制御室を離れた。
ともだちにシェアしよう!