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第46話

頭が重い。 時々、振動が体に伝わる。 ブーーーーンという機械音。 車の中? 誰の車の中にいるんだ? 周りを見渡そうとしても、体が重くて動けないし、辺りも真っ暗だ。 頭上でトランクの開く音がした。 そっか……僕は、車のトランクの中にいたのか。 そのままトランクから荷物を出すように、誰かに抱きかかえられる。 僕の口にハンカチを当ててきた奴の肩に抱えられると、また暗闇の中に閉じ込められた。 声もあげられず、されるがままだ。 怖い。 (望さん……、助けて……) 途端に、望さんの顔が思い浮かんだ。 優しい顔。 「佳純」と呼んでくれる声が、今は聞きたくて仕方がなかった。 ―――― 〈獅子尾目線〉 この前は勢い余って、キスしてしまったことを俺は激しく後悔していた。 今度会うとき、どんな顔をして会ったら良いんだ……。 そんな後悔をしていると、「社長」と高村に話しかけられる。 「佳純くんから領収書をもらったので、経理の方で処理させてもらいました」 佳純という名前にドキドキしたが、高村に悟られないように、「そうか」と短く返事をする。 松岡が「失礼します」とお茶を持ってきてくれた。 そのお茶を啜りながら、高村の他の報告を聞いていると、「そういえば」と違う話題になった。 「小野くんが佳純くんの『初仕事お疲れ様会』を開きたいと言っているんですが、どうしますか?」 思わず、お茶を吹き出した。 そんな会食を開いたら、俺の心臓がもたない。 ただでさえ、佳純が絡むとヘタレになるのに……。 「汚いですね。ちゃんと自分で拭いてください」と高村に渡された布巾で机を拭く。 「そ、その会はいつやるんだ?」 「今日の19時から、社長の家です」 「ななな、何で俺の家なんだ」 「……嫌ですか?」 「嫌じゃないが……」 ただ、気まずい。 「悪いと思っているなら、ちゃんと謝った方がいいと思いますよ」 確かに、ちゃんと話す機会が必要だが……。 「松岡さんも来ますか?」 何も言わず、立っていた松岡も高村が誘う。 「激しく同席させてもらいたいのですが、予約していたDVDと本を取りに行かなければいけないので、今回は辞退させていただきます」 「そうですか」 「後日、詳しく聞かせていただきたいです」 松岡の眼鏡が光る。 お前には絶対何も言わないぞ。 そんなやり取りをしていると、高村の電話が鳴った。 「もしもし……小野くん。どうしたんですか?……え?佳純くんが帰ってこない?……佳純くんなら、もう帰ったはずですが……」 佳純が店に戻ってないらしい。 「買い物とかではないんですか?……連絡もない。……分かりました。私は社内を一度探してみます。小野くんはお店の近所を探してみてください」 高村は電話を切る。 察しのいい松岡は、すぐに警備に連絡を入れた。 「高村、俺も探す」 「いけません。……と言っても、探すんでしょう?池村くんにも手伝ってもらいましょう」 高村が池村に連絡を取っている最中、俺は社長室を出た。 会社の中は、高村達に任せればいい。 しかし、馴染みのない会社よりも、さっきまで仕事をしていた結婚式場にいる可能性が高い。 俺は急いで、エレベーターで下まで行き、車を走らせた。

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