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第49話

〈池村目線〉 GPS、ちゃんとつけといて良かった。 誘拐された時って、だいたいスマホとか捨てられてる可能性高いし、まさかボールペンに仕掛けられてるなんて思わないしね。 ……まぁ、持ち主も知らないけど。 非常食のビスケットを頬張った。 色々考え事してると、お腹が減る。 どうして、こんなに食欲が止まらないのか、自分でもよく分からない。 小野曰く、「池ちゃんは、頭使いすぎ!」らしい。 そんなことないけど。 あ、でも、また頭使わなきゃいけないんだった。 電話で高村さんに連絡する。 「もしもし、高村さん?池村ですけど。今日コンピューター制御室に忍び込んで、データを持ってった奴、分かったよ」 一通り話が終わったから、とりあえず高村さんの所に行こう。 ノートパソコンを持って、マンションの前で肉まんをかじりながら待っていると、黒い車がやって来た。 車の中で物を食べると叱られるから、急いで胃の中に納めて車に乗る。 「ちゃんと言いつけを守って、いい子ですね」 にこやかだけど、冷たさも感じる微笑みで俺を迎えてくれたのは高村さん。 いつもだったら、社長もいるんだけど、今日はいない。 それに珍しいことに、今日は高村さんの運転らしい。 「……子供じゃないから」 「外見は幼く見えますよ。佳純くんはきっと年下だと思ってるはずです。……本当は年上なのにねぇ?」 「何と思われても別に構わないよ。それより、マンションに行くんでしょ?」 「ええ。ナビしてくださいね」 高村さんは口元だけ笑みを浮かべている。 ……目が笑ってない。 この人がこんな笑い方するのは、怒ってる証拠。 笑いながら怒るって、ある意味一番怖いかも。 車で暫く走ると目的地であるタワーマンションに着いた。 入口は指紋認証のついた機械が取り付けられてるけど、うちの会社に侵入した奴の指紋を元に作った指紋テープを指に貼って、自動ドアを開けた。 マンションの21階。 一番奥の部屋まで行くと、「花園」と書かれた表札があった。 俺は躊躇わずに、指紋テープを使って、部屋のドアも開け、物音をたてないように、俺と高村さんが忍び込む。 奥の部屋からはパソコンのキーを打つ音が聞こえ、そっとドアを開けると、花園薫がパソコンで何やら作業をしている。 「こんにちは」 高村さんは静かに声をかけたが、花園はかなり驚いたらしく座っていたキャスター付きの椅子から転げ落ちそうになっていた。 「あ、あなた……高村さん……?な、何でここに……」 「いえ、誰かがうちの会社の情報を持ってったらしくてね。追いかけてきたんです。そしたら、犯人はここにいるみたいで……」 高村さんはフローリングに膝をついて、花園と同じくらいかそれより下の目線まで下がった。 そして、それはそれは綺麗な微笑みで彼女を見て問う。 「ハッカーをここに匿ってるんですか?それとも」 高村さんの顔から笑顔が消えて、ノンフレームの奥の瞳孔が開いた。 「……てめぇが犯人か?」 花園は「ひっ!」と小さな悲鳴を上げた。 でも、そんな悲鳴は高村さんには届いてない。 「ヤクザ、なめてんじゃねぇぞ?」 ―――― 「助かりました、池村くん。今日は大手柄ですよ」 高村さんに寿司を奢ってもらった。 最近、働きづめだったから、空腹具合も半端ではなかった。 「サイバー攻撃もあれっきりでしたし、コンピューター制御室のパソコンに仕掛けておいてくれたウィルスもちゃんと役に立ちましたしね」 花園が犯人だったのは、すぐに分かった。 コンピューター制御室の監視カメラにばっちり映ってたからだ。 かなり間抜けな犯人だけど、花園には共犯者がいたらしく、そいつから監視カメラは壊してあるから堂々と侵入しろと言われていたらしい。 ということは、花園はその共犯者にいいように使われて、捨てられたのである。 それを知った時の花園は、放心状態だった。 それから居場所の特定には、コンピューターに仕込んだウィルスが役に立った。このウィルスをつけられたデバイスはマーキングされて、デバイスの位置を特定することができる。 これだけのことをしようと思うと、やっぱり一人じゃ大変だったな。 空腹に負けじと頑張った成果だ……。 まぁ、その間に肉まん10個くらい食べちゃったけど。 「それにしても、花園さんの共犯者というのが気になりますね」 花園は、高村さんの尋問に答えていたが、結局共犯者の名前は喋らなかった。 報復が怖いのかな。 花園のことは、訴える手続きをすると高村さんが話してた。 「引き続き、池村くんはセキュリティよろしくお願いしますね」 「はい」と返事をして、俺はこの空腹を満たし始めた。 「後は、佳純くんが回復してくれたらいいんですけど」

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