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第53話
水着を買うなんて、本当に久しぶりだ。
大学生の頃も泳いだりしなかったから、高校生ぶり?
「佳純さん!これなんて、どう?」
小野くんが差し出したのは真っ赤な海パン。
あまりに真っ赤っかすぎて、引く。
「いや……ちょっとこれは派手すぎない?」
「そうかなぁ?あ!じゃあ、これはハイビスカスの柄!」
「いやぁ……ちょっとそれも……普通の青とか紺とか、目立たないやつがいいな」
「え~似合うと思うんだけどなぁ」と言いながら小野くんはお店の奥へ行ってしまう。
無難な色ないかなと、探していると、別のお客さんにぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい!」
「いや、こちらこそ……ってあれ?猫島さん?」
「あ、えっと……手塚さん?」
さらさらとした黒髪に爽やかな笑顔、パーティー以来会ってなかったけど、ウェディングプランナーの手塚友則 さんだ。
「猫島さんも水着、見に来たの?」
「はい。今度、望さん……獅子尾社長と高村さんと一緒に海辺の別荘にお邪魔させてもらうことになってて……」
「猫島さんも?俺もなんです。俺も社員だから夏季休暇の時に使ってもいいって言われて。パンフレット見たんですけど、すごく広い敷地に別荘やコテージが建ってて。これなら沢山社員が利用しても大丈夫そう」
「そんなに大きいんですか……」
さすが獅子尾コーポレーション……それだけ会社の規模が大きいんだ。
「佳純さーん!良さそうな水着見つけたよーって……お知り合い?」
小野くんが蛍光ピンクの海パンを持って、やってきた。
「こちらは、手塚友則さん。望さんのところ式場のウェディングプランナーさん。手塚さん、こちらは社長の会社の清掃員でもあり、僕の花屋さんもお手伝いしてくれている小野淳也くんです」
「手塚です。よろしく」
手塚さんはにこりと笑って、手を差し出した。
小野くんは少しだけじっと差し出された手を見て、「よろしくっす。手塚さん」と握手した。
「小野くんももしかして、別荘に?」
「そうっす。手塚さんも?」
「うん。……あ、ごめん。俺、ちょっと約束があるから、二人ともまたね」
「はい。また別荘で」
手塚さんは時計を見ながら、お店から出ていった。
相変わらず、爽やかな人だな。嫌味がない感じだから、女性にモテそうだな。
「あの人……」
「ん?小野くん、どうしたの?」
「いや、何でもない。それより、これどう!?」
小野くんは握りしめていた蛍光ピンクの海パンを僕に差し出した。
「着ません」
というか、そんなの着れません。
早く無難なものを見つけないと、小野くん好みのばかり選ばれてしまいそうだ……。
――――
〈小野目線〉
佳純さんを自宅まで送り届け、夜の街を歩く。
今日会った手塚という男、どこかで見たことがあるような気がする。
「どこだったかなぁ」
言葉に出すと案外思い出すかと口に出してみたけど、思い浮かばなかった。
最近見たわけじゃなくて、もう少し昔に見かけたような気が……。
まぁ、今度また会えるし、その時思い出すか。
俺は妙な違和感を持ちながらも、あまり気にしないようにしていた。
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