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第55話
いよいよ、明日は別荘地に出掛ける日。
カバンに着替えや水着を入れていく。
シャンプーとか歯ブラシはあるって言ってたから大丈夫だし、携帯の充電器も入れたし……と忘れ物がないか確認していると、携帯が鳴った。
電話らしく、画面には、「望さん」と出ていた。
僕は慌てて出る。
「あっ、もしもし……!」
『佳純、すまない。寝てたか?』
「いえ、大丈夫です。起きて、荷物を確認してました」
『そうか』
「望さんは、どうしたんですか?」
『いや、その……』
望さんは、少し言い淀んだが、一拍置いて『眠れないんだ』と告白した。
何かあったのかと、僕は少し心配になったけど、安心したし、少しだけ笑ってしまった。
「眠れないんですか?どうして?」
『……明日が、楽しみすぎて』
恥ずかしいのだろうか。少し声が小さい。
「僕も楽しみですよ。泊まりでどこかに行くなんて、本当に久しぶりで」
『俺も……こんなに楽しみな旅行は久しぶりだ』
「最近、仕事以外でどこかに行ったりすることが増えて、心の中で余裕が出来たって言うか……すごく今、幸せなんです」
『佳純……』
「望さんたちのおかげです。ありがとうございます」
今までは働いて生活していくので必死で、遊んだりなんてできなかった。
高村さんや小野くん、そして望さんに出会って、たくさん楽しいことが増えた。
他人から見たら、特別な事じゃなくても、僕にとっては特別な事なのだ。
『俺も、今幸せだ。佳純に出会えてよかったと思っている』
低い心地よい声が、頭の中で響く。
今、思ったんだけど、望さんの声がいつもよりも色っぽいというか、甘いから……本当の恋人みたいで……顔が熱くなってきた。
「あ、あの……!明日早いし、もう休みますね……っ」
『あぁ……そうだな。少しでも話せてよかった。おやすみ』
「お、おやすみ、なさい……」
電話がプツリと切れた。
僕はスマホをほおり投げて、布団にどさりとうつ伏せになった。
「望さんの声……心臓に悪いや……」
一週間も一緒にいるんだよね。
それから、望さんは、僕のことがす、好きで……。
意識しだしたら、今更だけどすごく緊張してきた。
「眠れるかな……?」
僕も望さんと一緒で眠れなくなってしまった。
望さんのせいだ……。
僕は心の中で恨み言を呟いてみた。
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