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第59話
僕は部屋に入り、荷物を中に入れた。
最低限の日用品と、服、水着、バスタオルも持ってきたが、タオルは貸してくれるらしい。
少しだけ、落ち着いた後、喉が乾いたため、一階に降りる。
本当に広い別荘だな。
部屋がいくつもあって……探検するだけでも楽しそう。
リビングのドアを開けると、とても広いリビング。
黒いソファがコの字型に置かれており、透明なガラスの机、テレビも薄くてめちゃくちゃ大きい……何インチなんだろう……80インチくらいだろうか。
「テレビご覧になられますか?」
「ふぇ!?」
突然後ろから声をかけられたため、変な声をあげてしまった。
振り向くと、白髪混じりで眼鏡をかけた優しそうな男性が立っていた。
年は50歳くらいだろうか。
「すみません、猫島様……驚かせてしまって……」
「あ、いえ、すみません……って、名前……」
名乗ってないのに……。
「坊ちゃん、いや、望様から聞かせてもらっていますよ。特別なお客様だから、特別手厚くもてなしてくれと」
「はぁ……」
「申し遅れましたが、私、白井宗篤 と申します。ここの管理人兼使用人ですので、何かあれば、何なりとお申し付けください」
背筋も伸びて、お辞儀する所作も美しい。
僕も思わず、ぺこりと頭を下げて、「よろしくお願いします!」と挨拶した。
すると足元を何かが通る気配がして、下を見ると、黒いもふもふした猫が僕の足に擦り寄ってきた。
かわいい!目が金色でキラキラしてる!
「おや、クロス。そんな所にいたんですか?イタズラとかしてないでしょうね」
白井さんは、クロスというクロネコを抱き上げる。
「クロスっていう猫なんですか?人懐っこくて可愛いですね」
「ふふ。この子のお尻、ほら。ここだけ白い十字架の模様が入ってるんですよ」
僕にお尻を向けると、確かに十字架のように見える模様があった。
「本当だ!珍しい模様ですね」
僕がクロスの顎を撫でると喉を鳴らして喜んでくれた。
「でも、イタズラっ子でやんちゃなのが、玉に瑕ですけどね」
クロスと戯れていると、望さんと小野くんがやって来た。
二人とも、もう水着姿になっている。
「やっぱりここにいた!佳純さん、早く海に行こうよぉ!」
「あ、ごめんね。ちょっと喉が渇いて、お茶を貰おうと思ってたんだ」
クロスを抱っこしていると、望さんもクロスの顎を撫でる。
「クロス……久しぶりだな。元気してたか?」
「望さんの飼い猫なんですか?」
「いや、元々は野良猫だったんだが、人懐っこくて、その、可愛くてだな……。ただ家だと見る奴もいないから、白井に世話してもらってるんだ」
「望さん、猫好きなんですね」
「ま、まぁな……」
望さん、ちょっと照れてる。
僕が望さんが赤くなっているのを見ていると、小野くんも「クーロス!ひっさしぶりー!」と抱きしめようとすると、僕の腕の中で、「シャーッ」と急に威嚇し始めた。
「わわっ!クロス、どうしたの??」
「なーんで、俺には懐いてくれないのぉ??」
「いつもの事だな」
望さんはため息をついた。
「いつもの事?」
「毎年、小野もこの別荘に来るんだが、クロスは絶対に懐かないし、こうやって威嚇するんだ」
「俺泣いちゃうっ」と小野くんが泣き真似をしていると、白井さんがお茶とクッキーを持ってきてくれた。
白井さんは、クロスを宥めながら、ミルクを飲ませてきますと奥に行ってしまった。
お茶をして、一息つき、僕は自分の部屋で水着に着替えた。
鏡には、望さんや小野くんとは違う、貧相な上半身が映っていた。
ううーん、やっぱり……二人の隣に並ぶの恥ずかしいな……。
僕は椅子にかけていたパーカーを羽織って、二人の待つ一階に向かった。
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