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第60話

下に降りると、高村さんも玄関にいた。 高村さんも水着にパーカーを羽織っている。 「佳純さん!なーんで、パーカー羽織っちゃってんのぉ?」 小野くんはぷくっと頬を膨らましながら、文句を言い始めた。 「だって……皆かっこいい体つきだし、僕、体貧相でかっこ悪いし……は、恥ずかしくて……」 「えー!そんな貧相じゃないでしょ?ね?社長!」 小野くんが望さんの方を見ると、望さんは固まっていた。 僕の方をじっと見たまま動かない。 ど、どうしたんだろ?? 「パーカーは羽織るべきだ」 「え?社長?何言ってんの?」 「パーカーは羽織るべきだ」 「望さん??」 壊れかけのラジオのように同じ言葉を繰り返している。 高村さんは笑いをこらえるように、肩を震わせている。 「佳純くん、望はね、佳純くんの裸を見られたくないんだよ」 「え!?は、裸じゃないですよ!!」 そりゃ、上半身は裸だけど、下は水着着てるし! あ、上半身があまりにも貧相だから、見せたくないのかな……。それはそれで悲しいけど。 「パーカーは羽織るべきだ」と喋り続けている望さんの背中を「はいはい。ちゃんと佳純くんはパーカーを羽織ってるから、さっさと海に行きましょうねー」と言いながら高村さんは押していった。 「望さん……僕の体、貧相すぎて見たくないのかな……」 「いやー、それは違うと思うけど……。まぁ、とにかく海行こうよ!」 小野くんは苦笑いしていたが、気を取り直して、海に繰り出した。 水平線が眩しくて、真っ青な海に僕の心は躍る。 海なんて、本当に久しぶりだ。 小野くんはバシャバシャと海の中に入っていく。 「佳純さんも早くー!」 「うん!今行くね!」 望さん達が立ててくれたパラソルの下にパーカーを畳んで置いておく。 高村さんがパラソルの下で本を読んでいた。 「高村さんは泳がないんですか?」 「日に焼けやすいので、ここにいます。また海にも入りますよ。それに、望と小野くんのお守りもしないといけないので」 「お、お守り……」 優雅に椅子に座って本を読む姿は、様になっている。 デキる男って感じで羨ましいな。 「佳純くん。良かったら、私の隣にいる望も連れて行ってくれませんか?」 隣を見ると、同じく椅子に座って項垂れている望さんがいた。 具合でも悪いのだろうか……。 「望さん?大丈夫ですか?」 望さんと目が合うと、ビクリと望さんは肩を震わせた。 「か、佳純……パーカーを脱いだのか……」 「あ!ごめんなさい!!海に入るから、脱いじゃいました……」 お、怒ってるのかな? 望さんの顔は真っ赤だ。 「俺も行く」 「え、でも、具合大丈夫ですか?顔、真っ赤ですよ?」 「大丈夫だ」 本当に大丈夫なのかな?? 「佳純くん、望は体の具合が悪いんじゃなくて、頭の具合が悪いだけなので、そのまま連れてってもらって大丈夫ですよ」 高村さんは相変わらず、望さんに対してSっ気たっぷりだなぁ。 〈獅子尾目線〉 佳純と一緒に海に行くことになった。 海に行くということは、つまり、水着になるってことだ……水着になるってことは、つまり、(上半身だけ)裸になるってことだ。 そんなの、俺の心臓はもつのか……? いや、本当はすごく見たい。 すごく見たいが、耐えられないと思うのだ。 精神的に。 着替えてきた佳純は、しっかりとパーカーを羽織っていた。 安堵と同時に、すごく残念な気持ちになった。 だが、俺だけならまだしも、小野やほかの男や女がいる中で、佳純のあられのない姿を見られるよりマシだ!! 海に入る時は流石にパーカーを脱いだから、白い肌が眩しかった……。 「海、ちょっぴり冷たいですね」 「あぁ……そうだな」 平常心だ。 佳純の裸なんて、別に興味無い。 興味なんて…… 腰ぐらいのところまで海に入ると、急に波が佳純の体を押した。 隣にいた俺の体に柔らかな肌の感触がぶつかってきた。 「あっ!ごめんなさい!望さんっ」 「あぁ、大丈夫だ」 大丈夫。俺は平常心を保っている。 鼻から何か温かいものが流れているような気がするが。 「望さん!鼻血が出てますよ!?やっぱり、ぶつけたんじゃないですかっ?」 大丈夫だ、佳純。 鼻血なんて、大したことじゃない。 そう言いたかったが、佳純の肌の感触から手が離せなくて、何も言葉に出せなかった。

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