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第64話

僕は持っていたタオルなどを机の上にどさりと置いて、ベッドに倒れ込んだ。 あぁ……何だか、すごく自己嫌悪だ。 望さんの気持ちを知ってて、もし断ったら、契約を打ち切られるんじゃないかって……望さんの気持ちを軽んじてるような気がして、自分が嫌になった。 僕は、望さんのこと……どう思ってるんだろう。 ぐるぐると悩んでいるうちに、また眠りに落ちてしまった。 「……さん、佳純さん!大丈夫?寝てる?」 トントンとドアをノックする音と小野くんの声に気がついた僕は、慌てて飛び起きた。 開かれた窓の外は日が暮れかけている。 どれだけ寝てたのかな。 ドアを開けると、ノースリーブのパーカーにジーンズを履いた小野くんが心配そうな顔で立っていた。 「あー良かった!具合悪いのかと思ったじゃん」 「ゴメンね、小野くん。なんだかよく寝てしまって……」 「佳純さん、いつも働きすぎだから、たまにはこういうダラダラして寝るのもいいと思うよ」 人懐っこい笑顔で僕に笑いかけてくれる小野くんは、弟みたいな可愛さがある。 弟っぽいけど、かっこいいし頼りになる。 こうやって、すぐに心配してくれるところとか。 「もうすぐバーベキュー始まるよ。一緒に庭に行こう」 「うん。……あっ、ちょっと待って!バスタオルと水着、干すの忘れてた」 シャワーから上がってきて、そのまま机に放りっぱなしにしてた。 クローゼットの中にあったハンガーに掛けようとバスタオルを手に取ると、持ってきたはずの水着が無くなっていた。 ひとまずタオルをハンガーに掛けて、窓辺に干し、水着を探すも見つからない。 「佳純さん?何探してるの?」 「あ、いや……一緒に持ってきたはずの水着が見当たらなくて……」 「え!?」と驚きながら、小野くんも水着を探してくれたけど、やっぱり見つからない。 「どこいったんだろう……」と僕が机の下を覗いていると、小野くんは「……もしかして、盗まれたとか」とポツリと呟いた。 「ええ~……まさか~」 男の水着を盗む人なんている? 「いや!最近は男に対してもセクハラする人がいるし、佳純さん、美人だから分からないよ?!」 いや、僕は美人じゃないし、そんなことをする人なんているのかなぁ? 「いやぁ……僕、美人じゃないし、僕の水着持ってってメリットある人いるかなぁ」 小野くんや望さん、高村さんはイケメンだし、もしそういう変質者がいたら、狙われそうだけど…… 「もー!佳純さんは全っ然、自覚ない!!」 「少なくともいるんだから、そういう人が一人だけ……」とか何かブツブツと小野くんは呟いている。 「よし!とにかく事情聴取だ!!」 「え!?ちょ、小野くん、事情聴取って……」 小野くんは僕の手を取って、一階に向かった。 <小野目線> 佳純さんの大事な水着がなくなったらしい。 犯人なんて決まってる。 絶対、社長だ。 佳純さんの一番のファンだし、佳純さん限定の変態だし!(ここ重要ね!) 「小野くん、待って……水着くらい無くても、別にいいよ。他の人を疑うのよくないと思うし……」 「佳純さんは、甘い!!それに水着がないと海で泳げないし、今日だって社長が鼻血垂らしたせいで、ほとんど佳純さん泳げなかったし!」 「そ、それは……望さんのせいじゃなくて……」 佳純さんが優しいから、社長がつけあがるんだ。 今頃、佳純さんの水着で何してるか……ん?この場合、ナニしてるかっていうのかな……。 いや、そんな言い回しはどうでもよくて、水着泥棒を探さないと! 佳純さんを連れて、一階に行くと、ダイニングで高村さんがバーベキューの用意をしている。 「高村さん、社長どこに行ったか知らない?」 「望ですか?さぁ……30分前までリビングでぼーっとしてましたけど」 むむっ?リビングでぼーっと……? あやしい。 「それより、白井さんが今お肉を調達しに街に出ているので、人手が足りないんです。小野くんも手伝ってください」 「えー……今それどころじゃ……」 「じゃあ今夜は玉ねぎばかり食べさせますよ」 「玉ねぎばっかは嫌ーーー!!」 俺が絶叫していると、佳純さんが「僕、手伝いますよ!」と手伝おうとしたが、高村さんは首を振った。 「佳純くんは疲れてるでしょ?ここは私達に任せて、ゆっくり休んでください」 「さっきまで寝てて、元気になったので大丈夫ですよ!」 佳純さんがそのまま手伝いに入りそうになったところを俺はストップをかける。 「待って、高村さん!今、俺たち、水着泥棒を探してるんだ」 「水着泥棒?誰の水着が盗まれたんですか?」 「佳純さんの水着がなくなったんだ」 「佳純くん、それは本当ですか?」 きらりと光るメガネの奥の瞳は、穏やかだけど全く笑っていない。 「え、あ、いや……僕が無くしちゃったのかもしれないし、盗まれたかどうかは……」 「俺は犯人の目星がついてるんだ」 「……なるほど。小野くんの言う犯人は分かりました。確かに、私も彼が不審な動きをしていたのを見ましたしね」 高村さんはバーベキューの串にすっと肉を刺しながら、ニヤリと笑った。

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