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第65話(小野目線)

「不審な動き……?」 高村さんはバーベキューの具材を刺しながら、話し始めた。 「ちょうど2時間前くらいに海から帰った私は、洗面所の前で望を見かけました。話しかけたら、かなり驚いて後ろに何か隠してましたよ」 「え!?隠したって何を?」 俺が高村さんに詰め寄るも、高村さんは素知らぬ顔で準備を進める。 「さぁ?慌てて、どこかに行っちゃいましたけど」 「佳純さんは2時間前って何してた?」 「2時間前は、僕がシャワーを浴びて出てきた時だと思う。望さんと洗面所の前で会って、僕はそのまま部屋で休んだんだ」 うーむ。ということは、佳純さんと出くわした社長は、その後高村さんに出会ったということか。 「だんだん謎が解けてきたぞ」 「謎解きもいいですけど、準備もして下さいね。小野くん」 佳純さんの水着を取り返さないと、バーベキューは楽しめないぞ! いや、時間になったら楽しむけど!! 「もうちょっとで謎が解けそうだから、謎が解けたら、手伝います!佳純さん、社長を探しに外に行こう!」 「え!お、小野くん……引っ張らないで……!」 俺は佳純さんを連れて、外に出てみた。 庭に出てみると、バーベキューコンロの準備をしていた池ちゃんを見つけた。 「池ちゃん!社長見なかった?」 「社長?社長なら海岸の方に行ったけど……なんかブツブツ言いながら」 これは新証言か! 「何をブツブツ言ってたの?」 「んー確か、『俺は最低だ……』とか何とか……よくわかんないけど」 池ちゃんはどこから取り出したのか、クッキーをばりぼり食べながら答えてくれた。 「あーお腹空いた……早くバーベキューしたい」 そんなことをブツブツ、そしてクッキーをばりぼりしながら池ちゃんは呟いていた。 相変わらずの食欲だな……。 「ねぇ……小野くん。もしかして、望さんを疑ってるの?」 「まぁ……社長くらいしかいないし……」 「望さんはそんなことしないよ。もしかしたら、ちゃんと探せてないだけかもしれないし、無かったら無かったで、もういいから」 「佳純さん……」 優しく笑う佳純さん。 佳純さんがいいなら、もういいのかなぁ? 諦めかけたその時、前から社長が歩いてきた。俺はさっそく社長の方へ行き、確認してみる。 「社長!あのさ、佳純さんの水着が無くなったんだけど、知らない?」 「み、水着!?」 え、明らかに狼狽えたんだけど……これは、何か知っている。 「社長と帰ったあとに無くなったらしいんだけど……」 「多分、俺が無くしちゃっただけなんで!!」 佳純さんは慌てて訂正するけど、この社長の慌てっぷりは怪しい……!! 「あの水着は……」と社長が何かを言おうと、後ろから白井さんが駆け寄ってくる。 「望様、この水着を洗濯させてもらったのですが……」 そう言って持ってきたのは、紺色の水着、佳純さんの水着だった。 「あ!それ、僕のです」 「……猫島様のだったんですね。では、お部屋に持っていきますね」 白井さんはニコニコとしながら、持って行こうとした時、俺は慌てて、「どこにあったんですか?」と聞いてみる。 白井さんはちらりと社長の方を見て、ニコリと笑う。 「洗濯カゴにございました。望様が入れてくださったんですよね?」 「あ、あぁ……佳純が廊下に落としたから……」 「そうだったんですね……!ありがとうございます」 佳純さんはニコニコと笑いながら、お礼を言った。 良いことをしたわりに、社長の目線がキョロキョロと動いてるのが気になるけど……。 「ほら、小野くん。望さんはそんなことしないって言ったでしょ?」 ニコニコと誇らしげにそういう佳純さんを見たら、ちょっと怪しいよーなんて言えるわけもなく、「そうだね」と頷いた。 〈獅子尾目線〉 別荘を出て、散歩をして、物思いに耽っていた。 佳純の水着をそのまま自分の部屋まで持って行ってしまった。 成り行きで持ってきてしまったが、やはりちゃんと返さなければ。それか、洗濯カゴにそっと入れておくか……。 そんな考え事をして、別荘に帰ると、小野と佳純が前からやってきた。 「社長!あのさ、佳純さんの水着が無くなったんだけど、知らない?」 小野の質問に心臓が跳ねる。 う、狼狽えるな、俺! 「あ、あの水着は……」 別に悪いことをしてるわけじゃない。 勢い余って部屋に持っていったと言えば……いや、流石にこの言い訳はダメだろ。 ぐるぐるとなんとか言おうとするも、言葉が続かない。 すると、白井が佳純の水着を洗ったと持ってきてくれた。 助かったのと同時に、白井に佳純の水着を部屋に持ち込んでいたことがバレた。 後で、白井にその事を聞いてみると、クスクスと笑いながら教えてくれた。 「お洗濯物をお部屋に持って行った時に見つけたのです。望様の水着ではなさそうでしたし、まだ洗っていないようでしたので、洗っておきました」 本当は白井には全てバレているのだろうが、小野に問い詰められた時に話をとっさに合わせてくれたのだ。 「そうか……それは助かった。ありがとう」 「いいえ。私もあんなに狼狽えている坊ちゃんは初めてです」 普段だったら、坊ちゃんはやめろと言いたいところだが、今回は助けて貰ったので、言わないでおく。 ……昔から、白井には敵わないのだから。

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