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第67話(松岡目線)

こんにちは。松岡です。 久々に皆様に語りかけています。 実は私、この旅行にひっそりといたのです。あまりの気配のなさに皆様びっくりされたと思います。 さて、私はバスの中から、噂の二人……社長と猫島さん、いえ、社長×猫島さんを観察しておりました。 無防備に猫島さんが社長の肩を借りている所は……悶絶の極みでした。なかなか見せつけてきますね。 社長の猫島さんを見る顔が、男同士の友情ではありませんでした。 言うなれば、付き合い始めた年下の彼女が無防備に彼氏の肩に寄りかかって寝てしまい、今がチャンスだとばかりに彼女の寝顔をじっくり観察する感じ。そう、あの感じ。 別荘地に着いてからも、何だかそわそわしている社長が面白い。 確実にいつもより浮き足立っている。 私達社員は社長の別荘とは、少し離れた所にあるコテージで過ごすこととなるため、別荘での二人を観察することは困難でした。 ただ、初日は社長の別荘の庭でバーベキューをすることになっていたし、海水浴場でもきっと観察できるはず。 コテージに着いてから、荷物を出しながら、携帯のアプリで同志たちに報告をする。 事前に社長と猫島さんの関係は微妙に立場や年齢などをごまかしながら説明してある。 一応、身バレしないための技だ。 『萌えをありがとう』という返信が次々と返ってきた。 「もう少ししたら海で二人を観察してきます……と」 『報告待ってます♪』 『二人が早く結ばれればいいのにぃ』 『幸せを分けてくれてありがとう』 次々と来る返信に目を通し、水着に着替える。 ビキニとか着るタイプではないから、ワンピース型の水着にした。上から適当に何か羽織ればいいだろ。 準備が済み、海の方へ行くと、ビーチバレーをしていたらしい。 (社長たちは、まだか……) 誰もいないパラソルの下で小説を読みながら、ビーチを見ていると、パーカーを着た猫島さんと社長、それから会社の清掃員の小野くんがやって来た。 もう一人の秘書である高村さんのいるパラソルに入っていく。 あのパラソルの下だけ、異常にイケメン密度が高い。 私は持ってきた双眼鏡で少し覗いてみる。 猫島さんがパーカーを脱ぎ、上半身が露になる。社長の反応が見たいのに、社長が私に背を向けているせいでどんな顔をしているのか分からない。 しかし、社長は猫島さんの方を見て微動だにしないところをみると、見とれていると思って違いないだろう。 猫島さんが社長をビーチに誘っていると、双眼鏡の前に誰かが立った。 「松岡さんも来てたんですねー!俺、めっちゃ待ってたんですよー」 茶髪の男、顔は悪くもなければ良くもない。 この人、誰だっけ? 「俺、めっちゃ松岡さんとビーチバレーしたくて待ってたんですよぉ。ビーチバレーしましょうよぉー」 やたらと語尾を伸ばすこの話し方、覚えがある。 このチャラい感じ……あ、経理の山田。 仕事は最低限こなしてる感じでぱっとしないけど、飲み会とかでは盛り上げ担当みたいになっているらしい。 そういえば、前にやたらと誘われた覚えがある。好きなBL作家さんのマンガの発売日だったから断ったけど。 「ねぇねぇ、松岡さーん!松岡さん、手足長いし、強いよぉー」 「私、運動神経ないんで見てます」 「えー!やらないのぉ?」 しつこいぞ、経理の山田。 「私、海を見るのが好きなので、ここにいます。ごめんなさい」 半分嘘で、半分本当。 正確には海に入ってイチャイチャしてる男二人を見るのが好き。 少し強めに言って、眼力を強めに飛ばしたら、経理の山田は「そっかぁ」と引き下がっていった。 さぁ、邪魔者がいなくなったので、もう一度観察しようと、双眼鏡を覗く。 「……!?」 思わず、びびってしまった。 社長が鼻血吹いてる。 何?何があったの?猫島さん、社長に何をしたの? 猫島さんも慌ててるし、何故社長が鼻血を……。経理の山田のせいで見逃した。 猫島さんは社長を支えながら、ビーチに上がり、パラソルの下で看病していた。 傍でビーチバレーをしている人達が何やらキャーキャー騒いでいる。 どうやら清掃員の小野くんが私の代わりに入ったらしい。 彼は顔もいいし、愛想もいいので女性社員に人気だ。運動神経もいいらしい。 「小野くん、すごーい!」 「また負けたぁー」 楽しそうなビーチバレーをちらりと見た後、また二人に視線を戻すと、猫島さんが心配そうに社長を見ている。 すると、急にバーンっ!という大きな音が響き、社長の顔面にビーチボールが叩き込まれた。……痛そう。 ビーチバレーをしていた社員の誰かがぶつけたらしい。 社員全員が真っ青な顔をしている。ただ一人、ボールをぶつけた張本人である小野くんはケロッとした顔でいるけど。 社長は般若の顔で怒ってる……。 社長って時々、すごく怖い顔する時がある。 なんというか……カタギの人じゃないみたいな。 猫島さんが間に入り、宥めているように見える。 社長の般若顔は鳴りをひそめ、二人で別荘の方へ帰っていった。 二人で何をするつもりだろう……。 ついて行くにも、さすがに別荘までいくのは……。 あぁ、でも、バーベキューで別荘にお邪魔する予定だから、その時にまた観察しよう。

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