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番外編:猫の日子猫 1
『今日、二月二十二日はにゃんにゃんにゃんで、猫の日でーす!私も猫耳を付けてみました~』
「猫の日かぁ……」
民放の女子アナさんが猫耳をつけて、楽しそうに話している。
なるほど、にゃんにゃんにゃんで猫の日。
面白い語呂合わせだなぁ。
僕は感心しながら、一旦テレビを消した。
今日は午前中に望さんの会社が経営している結婚式場での打ち合わせだ。
何時までかかるか分からないから、今日はお店をお休みすることにした。
よし、そろそろ出かけようかな。
身支度を整えて、外に出ると、二月とは思えない小春日和。
暖かくて気持ちいいなぁ。
ブロック塀の上で野良猫が気持ちよさそうに寝ている。
バスを乗り継いで、結婚式場に行くとばったり望さんと高村さんに出会った。
「望さんと高村さん!こんにちは」
「佳純、こんにちは。今日は打ち合わせか?」
「はい!今度の結婚式はお花いっぱいの式にしたいというリクエストらしくて」
イメージを掴むためにプランナーさんと打ち合わせをするのだ。
望さんも仕事かな?
「望さんは?」
「お、俺は……仕事だ」
望さんが答えると、隣でクスクスと高村さんが笑う。
「社長。佳純くんに会いに来たと素直にいえばいいのに」
「え?」
「高村……」
ふふふ……と楽しそうに笑う高村さんとは対照的に望さんは恨めしそうに高村さんを睨んでいる。
「も、もしかしたら、今日会えるかもしれないと思っただけだ……」
照れくさそうに笑う顔が可愛い。
年上で、社長さんで、ヤクザの若頭なのに、こんなこと思うの失礼かもしれないけど。
「僕も望さんに会えて、嬉しいです」
「……俺も、嬉しい」
やっぱり、望さんは普段のキリッとした顔も素敵だけど、笑顔も素敵だな。
「社長。そろそろ次の打ち合わせの時間です」
「あぁ……。佳純、今夜ご飯を食べたいんだが……その、家に行ってもいいだろうか?」
「はい。大丈夫ですよ。何が食べたいですか?」
望さんは、少し考えて、「和食が食べたい」と答えた。
「和食……分かりました!待ってますね」
望さんと別れて、滞りなく打ち合わせも済み、時計はお昼すぎの一時頃を指していた
これから買い物して準備をしたら、大丈夫だな。
バスを降りて、近くのスーパーに行くと、ブリの切り身が安くなっていた。
ブリと言えば、ブリ大根。
大根も安くなってたし、いいかもしれない。
よし!ブリ大根とほうれん草のお浸しにしよう。
材料を買い、家に帰る途中、見慣れない鳥居が見えた。
神社?こんな所に神社なんてあったっけ?
見上げると『大猫八幡宮』と書かれている。
猫を祀っているのだろうか。
『今日はにゃんにゃんにゃんで猫の日です!』
ふと今日見た女子アナさんの言葉を思い出す。
少し気になって、その鳥居をくぐってみた。
長いこと、この街に住んでるけど、こんな神社があるなんて知らなかった。
敷石を歩いていくと、本殿らしき立派な建物が見えた。
その両脇には狛犬ならぬ狛猫が魚を銜えて鎮座している。
「おい、お前は人間かにゃ?」
「え?」
振り向くと、僕はびっくりした。
小野くんが猫耳をつけて立っている。
しかも白い着物に水色の袴まで着て。
「お、小野くん……?」
「小野?それは誰かにゃ?」
冗談なのかな……?
何かこの辺で猫の日のイベントとかあったっけ?
「それより、お前、名はにゃんと言うのにゃ」
「あ、えと……猫島佳純です」
「ほほう……名前に猫がついておる。だから、ここに来れたのかにゃ。よろしい。にゃんこ大明神様との面会を許可するにゃ」
どういうことだろうか。
にゃんこ大明神?
面会??
僕の頭にハテナが浮かんでいると、本殿の扉が開いた。
「さぁ、中で大明神様が待ってるにゃ。早く入るにゃ」
小野猫くん(さっき命名)が僕の背中をどーんと本殿の中に押し込む。
転がり込むように中に入ると、キラキラ輝く黄金の王座の上に、猫耳をつけた池村くんが座っているのが見えた。
「い、池村くん……?」
「余は、にゃんこ大明神。池村ではないにゃ」
そうか……小野くんも猫なら、池村くんも猫か……。
妙に納得してしまった。
「余は腹が減ったにゃ!」
大声をあげる池猫くん(これもさっき命名)がバンバンと玉座の肘掛を叩く。
「にゃんこ大明神様。この人間、食べ物を持っているようですにゃ」
落ち着き払ったこの声は……と池猫くんの脇を見ると、高村さんが凛々しい袴姿で現れた。
トレードマークのメガネは変わらないけど、やっぱりあるのは猫耳……!!
「にゃんだと!?人間、その袋の中身はにゃんだ?」
「こ、これは……その……」
まずい。この中には今晩のおかずのブリが入ってる。
バレたら食べられてしまう。
「どうやら魚のようですにゃ」
「神官は鼻が利くにゃ。お前にはマタタビを与えるにゃ」
高猫さんは神官らしく、池猫くんから褒美を与えられた。
猫の世界でも優秀なんて、さすが高村さんだ。
……って感心してる場合じゃなかった!!
「この魚はダメです……っ!これは望さんのご飯なんです!!」
僕が後ろに袋を隠すと、池猫くんが怒ったように声を荒らげる。
「どうしても渡さないつもりにゃ?だったら、『にゃんこの刑』に処すにゃ!!」
にゃ、にゃんこの刑……?
かわいい名前だけど、得体の知れない刑罰に僕は少したじろいだ。
池猫くん、もといにゃんこ大明神はどこに隠していたのか、杖を取り出し、僕の方へ振りかざした。
「にゃんにゃんにゃんにゃん……この不届き者に罰を与えるにゃ!!」
杖の先のピンク色の宝石が光る。
あまりの眩しさに目を覆う。光に包まれながら、僕の頭にはふと望さんの顔が思い浮かんだ。
ブリ、早く冷蔵庫に入れないと傷んじゃう……。
何が自分の身に起こっているのか分からないが、呑気にも今晩の夕食の心配をしている自分がいた。
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