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番外編:猫の日子猫 2

目が覚めると、僕は地面に倒れていたらしく、道路に突っ伏すように倒れていた。 起き上がろうと足に力を入れても、上手く立てない。 仕方が無いので、四つん這いになるとなんだかとってもしっくりくる。 今まで四つん這いで歩いていたかのような感覚だ。 そのまま四つん這いで歩いていくとやけに周りのものが大きく見える。巨大なジオラマを歩いているような感じ。 見知った交差点。あ、自宅への帰り道に通る交差点だ! 視点が低いから、何だか別の世界に来たみたい。 理髪店の窓を何気なく見ると、小さな黒猫がキョトンとした顔で僕を見つめている。 ん? んん?? 左にひょこひょこ、右にひょこひょこ歩いてみると、その猫もついてくる。 ……え、まさか。 この猫、僕……!? わたわたと騒いでいると、通りかかった幼稚園くらいの女の子が「あのねこさん、かわいー!」と僕の方を指さしてくる。 やっぱり僕、猫になっちゃったんだ。 あのにゃんこ大明神とやらがかけた魔法?なのかな?? じっと手を見てみると、ぷにぷにとした肉球が見えた。 なんて日だ……猫の日に猫になっちゃうなんて不運すぎる。 とりあえず、家に帰ってみよう。 僕はトテトテと家に向かうと、鍵のかかった店の扉がどんと目の前に現れた。 普段だったら、そんなにかからない道のりも、いつもの倍以上かかった。 猫って大変なんだな……。 人間の歩幅が恋しい。 扉をカリカリと爪でかいてみるも開くはずもない。 だって、僕は1人暮らしだ。 「あれ?にゃんこがいる」 声の方を見上げると、金髪のイケメンさんが立っていた。 小野くん……!! 僕は思わず声を上げるも、人語を操れず、「にゃにゃにゃ!!」という鳴き声しかあげられなかった。 「んー?お前、どうしたの?迷子??」 小さくなった僕の体は軽々と持ち上げられる。 小野くんのかっこいい顔が真近に見えて、思わずドキドキしてしまう。小野くんとこんな至近距離で接することないし……。 恥ずかしくなって、少しバタバタとすると、「おー、元気な男の子だな!」と股間を見て判断されてしまった。 恥ずかしいやら、情けないやら……。 「お前、佳純さん知らない?ここの花屋の店長さんで、美人さんな人なんだけど」 び、美人って……。 「にゃにゃにゃ、にゃんにゃん……(美人じゃないよ……)」 「何だよぉ~、その不満げな顔は。あ、お前、さては嫉妬してるなぁ?」 「にゃにゃにゃんっ!!(してないっ!!)」 僕は抗議の意味を込めて、ペシペシと尻尾で小野くんの手を叩いた。 「ごめんごめん!お前も可愛いよ~」 喉を擽られると、気持ちよくなってゴロゴロにゃんにゃんしてしまった……。 自分が猫に適しつつあることに、思わず頭を悩ませる。 「小野?」 後ろから、低い艶のある声が聞こえた。 この声は……。 「あ、社長ー!お疲れ様でーす!」 「こんな所で何やってるんだ?」 望さんだ……!! 僕は助けの神様がやってきたと小野くんの手から望さんの方へジャンプした。 それはそれは見事なジャンプ。 放物線を描いて、望さんの胸にダイブする。 オーデコロンかな?スッキリしたミントの香りがする。 「えー!めっちゃ社長に懐いてるじゃん!!」 僕は望さんに抱き上げられると、望さんと目が合う。 クールな目元が少しだけ緩んでいる。 「何だ?何で猫がこんなところに?」 「さっきから扉をカリカリしててさー、中に入りたがってるみたいなんだよね」 望さんは窓をのぞき込む。 僕を探してくれてるのかな? 「佳純は……まだ帰っていないのか。さっきも電話に出てくれなかったし、何かあったのか……?」 「え、佳純さん、行方不明?」 行方不明という単語に三人(正確には二人とも一匹)の間に不穏な空気が流れ出す。 「小野、佳純の行方を探せ。池村も駆り出せ」 「了解っ!!」 小野くんは携帯で池村くんに連絡した後、どこかへ行ってしまった。 望さん、すごく心配そうな顔してる……。 僕はここにいるよ。 気づいて、望さん。 僕、ここだよ。 望さんの胸を前足でとんとんと叩く。 「……何だ。慰めてくれているのか?」 こくこくこくこく。 何度も頷くと、望さんはくすっと笑った。 「お前ももしかして、佳純の手料理を食べに来たのか?俺もなんだ」 ごめんなさい。 手料理を準備出来なくて。僕が寄り道なんてしなかったら……。 「元気ないな。腹減ったのか?……家に何かあったか」 望さんは僕を抱えたまま、近くの駐車場に停めてあったスポーツカーに乗せてくれた。 「大人しく座ってろよ?」 僕の頭を撫でたあと、そのまま望さんはアクセルを踏んだ。

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