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第71話
友則さんの申し出に、高村さんは特に反対することなく受け入れた。
男手は多い方がいいらしい。
「じゃあ、物置の掃除をお願いしてもいいですか?中の物を雑巾で拭いてもらうだけでいいので」
「佳純くんと一緒でもいいですか?」
急な指名にびっくりしていると、高村さんは少し考えるように黙った。
「別に変なこと、しませんよ?」
友則さんは笑いながら言う。
へ、変なことって何だろう……?
友則さんの柔らかい笑顔を見て、高村さんは頷いた。
「リビングはいつも綺麗にしてもらってますし、いいですよ。ただし……」
高村さんはメガネを押し上げる。
「くれぐれも、くれぐれも、佳純くんに変なことをしないようにお願いします」
穏やかなのに、語気がなんだか強いような……っていうか変なことって何!?
「佳純くんはうちの大事な大事な契約花屋さんなので」
「それは勿論です」
何だろう、二人ともすごく穏やかな笑顔なのに、すごく冷たく感じるんだけど……!
二人の間に大寒波が来ているような感じがする!!
一階のリビングのベランダから庭に出ると、隅の方に倉庫があった。
そこに入り、入口の横にあるスイッチをパチリと付けると、裸電球がいくつか上にぶら下がっており、少し心もとない灯りの下にはお世話になったバーベキューセットが並べられていた。
これを掃除すればいいのかな??
「このバーベキューセットみたいだね」
「これでバーベキューしたのがもう六日も前なんて信じられないです」
楽しすぎてあっという間のお休みだったなぁ。
「じゃあこのまずはバーベキューコンロからにしよっか。少し明るいところまで出そう」
少し大きめのバーベキューコンロを二人で電球の傍まで持ってきた。
こうやってみると、結構年季が入っている。
大事に使っているから、長持ちしてるんだろうな。
「これは俺が綺麗にしておくよ。佳純くんはそこの……」
と、友則さんが僕の後ろの壺か何かを指さした時、外でドーン!という音が聞こえ、倉庫の電気が消えた。
「あれ!?停電?」
「そうみたいだね。雷が落ちたみたいだ」
「ま、真っ暗で何も見えないです」
「……佳純くん、大丈夫?怖くない?」
「僕は平気ですよ」
「そっか……」
友則さんは声のトーンが落ちている。
もしかして、雷が怖いとか暗いところが怖いのだろうか。
「友則さん、もしかして暗いのダメですか?」
「……うん、実はね。かっこ悪いよね。大の男が」
「誰にだって、苦手なものはありますよ」
暗闇に目が慣れてきて、友則さんの顔が見えてきた。キョロキョロと辺りを見渡して、不安そうだ。
僕は思わず、友則さんの腕を掴んだ。
「佳純くん?」
「大丈夫、僕がいますよ。だから、不安にならないでください。目が慣れてきたので、ドアの方に行ってきますね」
僕はドアの方向に向かって歩きだそうとしたその時、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
少し息苦しいくらいの力だ。
「と、友則さん……?」
「暗闇に乗じて、こんなことしてごめん……。ただ、どうしても君に伝えたいことがあって」
「僕に、ですか?」
耳元で友則さんが深呼吸するのを感じた。
「佳純くん、俺ね、初めて君を見た時から好きだった」
え。
好きって……。
「君の素直で笑顔が可愛いところとか、仕事に一生懸命なところとか、礼儀正しいところとか……守ってあげたくなるところとか……とにかく、佳純くんが好きなんだ」
「友則さん……」
好き、という言葉を聞いた瞬間、望さんの顔が思い浮かんだ。
「あの、僕……」
ちょうどその時、電源が復旧したらしく、ぱっと電気がついた。
「良かった、復旧しましたね」と後ろを振り向くと、後ろから抱きしめられているためか、思った以上に友則さんの顔が近くにあって、どきりとした。
ガチャリと勢いよく扉が開くと、「佳純!大丈夫か?!」と血相を変えた望さんが飛び込んできた。
そして、この状況を見て、固まる望むさん。
これは、とってもヤバい状況なのでは……。
「お前……佳純に何やってんだ……?」
端正な望さんの顔が少し歪み、額には青筋が立っている。
ど、どうしよーーーーー!!
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