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第8話(獅子尾目線)
パーティーが終わってから、車の中で高村に今日あったことを話した。
「え、かすみちゃんじゃなくて、かすみくんだったんですか?」
「……あぁ」
窓の外を見ながら、ぼんやりと返事をした。
「見事に玉砕ですかー」
「……玉砕?」
「男だったんですから、玉砕でしょ?」
確かに、女なら告白してもなんら問題ないが、男は……ダメか。
けど、佳純が男だと知った今でも、あの思い出が俺の中で黒歴史になっていないのは、佳純のあの笑顔が昔と全く変わっていなかったからだろう。
「……佳純のこと、調べてくれ」
「え?調べるんですか?」
「……あの時の礼を言いたい」
「分かりました」
高村は何故か小さく笑いながら、返事をした。
二、三日で佳純の住所などが分かった。
花屋は今もやっているらしく、大学四年生の佳純は卒業したら、花屋を継ぐらしい。
何度か車で佳純の家の前を通ったが、勇気がなくて、話しかけられなかった。
「これじゃあストーカーですよ」と高村に呆れられたが、あまり気に止めなかった。
それよりも、佳純に一言、「ありがとう」と言えない自分の勇気のなさに苛立った。
そんなことを2ヶ月ほど続けていたある日、佳純の両親が事故で亡くなったことを知った。
4月の初めのことだった。
それを聞いた俺は、居ても立ってもいられず、花屋に向かった。
初めて、車から降りて、花屋の前に立つ。
入り口には『臨時休業』という貼り紙があり、店内は暗かった。
もう店を閉めてしまうのだろうか……。
そう思っていたが、暫くして、佳純は自分一人だけで、店を開けるようになった。
また車から店の様子を覗くと、紺色のエプロンを着けた佳純が客と笑顔で話している。
元気そうだ。……店も続けられそうなんだな。良かった。
俺はほっとした。
俺と佳純を繋げているのは、あの思い出だ。
『おにいちゃんが来てくれたら、よつばのクローバーでブーケ作ってあげる』
あの言葉を覚えているだろうか。
「佳純くん、借金があるみたいですよ」
佳純が花屋を再開したことを知った直後、高村が教えてくれた。
「借金?いくらだ」
「半分以上は両親の保険金などでなんとかしたみたいですけど、残りの500万円がまだ払いきれてないみたいです」
500万くらいなら、すぐに俺が用意できる。
「ただ、厄介なところから金を借りているみたいで……」
「どこから借りてるんだ?」
「天竜会」
――――天竜会
俺が若頭をしている獅子虎組と敵対している組織だ。
だいぶ悪どいことをしているらしく、借金を払えなくなった人たちを売り物にしていると聞いたことがある。
臓器売買に使われたり、女子供は風俗に売られると。
500万払うくらい、何ともないが、佳純と俺が関係があると向こうに勘づかれると厄介だ。
佳純に危害が及ぶ可能性がある。
しかし、このまま放っておくことなどできない。
「高村……佳純の店に行くぞ」
「は?今から?何をしに?」
「花を買いに行く」
高村はなんとなく理由を察したのか、車を用意し、花屋に向かった。
が、いざ買いにいこうとするも、緊張して車から出られない。
俺は高村に財布を渡し、「……買ってきてくれ」と頼んだ。
「呆れた。花も買ってこれないんですか?」
ぶつくさ言いながら、車を出て、買いにいってくれた。
暫くして、花束を手に戻ってきた。
「はい。買ってきましたよ」
「これは何の花だ?」
黄色いバラをベースに白い小さな花がある。
「この小さな花は何だ?」
「カスミソウですよ」
「カスミソウ……」
佳純と同じ花。
小さくて可愛い、慎ましげな花だ。
「明日も行くぞ」
「明日も!?」
「明日から毎日だ。せめて、売り上げに貢献する」
「……今度は自分で買いにいってくださいね」
返事はしなかった。
自分で買いに行くのは、まだ勇気がでないからだ。
こんなに佳純が絡むと意気地無しになる自分が心底嫌になる。
だけど、佳純が店を続けていけるように見守ってやりたい。
本当にピンチになったとき、助けになってやりたい。
……あのとき、ケガをした俺に声をかけてくれたように。
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