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第9話(小野目線)
〈小野目線〉
社長から、「猫島佳純がやっている花屋を手伝いに行け」って言われたときは、何事かと思った。
俺、小野淳也は、獅子尾コーポレーションの清掃員兼獅子虎組の『清掃員』だ。
どっちも清掃員じゃんって?
対象が違うの、掃除する対象が!
そもそも、一清掃員が、社長から直々に命令っておかしいんだけど、俺の場合は、敵を排除する仕事をしてる。
獅子虎組や会社に悪影響をきたす敵対組織を始末する仕事だ。
ね、掃除みたいっしょ?
だから、今回もそういう仕事なのかなって思ってた。
「どういうことっすか?っていうか猫島なんたらさんって誰??」
いつもは電話なのに、わざわざ社長室に呼んでくるからよっぽどのことなのかなって思ったけど、意味不明な命令に首をかしげた。
「猫島佳純くん。23歳、フラワーショップ猫島の店主で、天竜会から借金があって困ってるんです」
高村さんが簡潔に説明してくれた。
「あぁ、天竜会と関わりがあるから、わざわざ俺に言ってきたってことっすか?」
「……それだけじゃない。この間、店に借金取りが来たらしくてな。佳純に何かあったら……」
社長は何やら苦い顔をしている。
この人、他人のことでも心配するんだなぁ。
「毎日じゃなくてもいいので、週4日から5日手伝いに行ってあげてください」
にこりと微笑む高村さん。
週4日から5日って……。
「それ、ほぼ毎日じゃん!」
「ちなみに、給料は社長のポケットマネーから出しますので、佳純くんからお金は取らないように」
「えー……まぁ、金もらえるなら、いいけど……。佳純さんって、社長の何なの?」
さっきから、心底、その猫島佳純さんのこと心配してるから気になった。
「社長の初恋相手です」
「え!?っていうか、男なんでしょ!?」
「出会って、16年間、ずっと女性だと思っていたらしく、この前男性だったことが発覚したんです」
16年間も初恋の子を思えるって、ある意味すげぇ。
っていうか、こじらせてるような気もする。
「高村……お前、笑いすぎだ」
社長は真っ赤な顔をしている。
よっぽど大切なんだろうな。その、猫島佳純さんのことが。
「分かりました!明日から行ってきます!」
「……頼む」
頼むなんて、言われたの初めて。
社長にここまで言わせる猫島佳純さん、すげぇ。
次の日の午前中、早速花屋に行ってみた。
「フラワーショップ、猫島……ここか」
入ってみると、ところ狭しと花が生けられている。
カランカランというベルの音に気がついたのか、「いらっしゃいませ」と声をかけられる。
黒髪に、白い肌。
くりくりと大きな瞳。
細い体。
確かに小さい頃なら、女の子に見えるかも?
けっこう美人系だし。
「何かお探しですか?」
にこりと笑って聞かれる。
俺もにこりと笑った。
「ここ、いい店っすね!ここで働いてもいいっすか?」
「え!?きゅ、急にそんなこと、言われても」
笑顔だった顔が、急に困った顔になった。
そりゃ、初対面でそんなこと言われたら、困るわな。
でも、大丈夫。
俺、敵対組織とかにたまに潜入してるから、口は上手い方。
「俺、田舎に母ちゃんがいて、仕送してるんすけど、今やってる仕事だけじゃ、仕送も自分の生活もままならないから、もっと大きな会社入りたいんです。だから、色々な経験積みたくて……ボランティアでいいんです!お願いしますっ!」
ちょっと無理やりすぎたかな?
「そうなんだ……お母さんが……。でも、本当にいいの?ウチ、お金とか本当払えないんだよ?」
「経験が報酬なんで!!」
「結構力仕事だし、接客しながらだから、ちょっと辛いかも……」
「力もあるし、コミュニケーション取るの好きなんで接客もいけるっす!!」
うぅ……と佳純さんは困ってたけど、最後は「分かった、よろしくね」と頷いてくれた。
暫く一緒に働いて分かったこと。
佳純さんの仕事ぶりはすごい。
花の買いつけから、世話、ブーケや花束作り、接客……。
本当に仕事しっぱなしである。
全然疲れたそぶりも見せなくて、たまに手作りご飯もご馳走してくれたりして……。(社長に自慢したら、めっちゃ悔しがってて笑えた)
けど、借金取りの嫌がらせが日に日に増してきている。
追っ払うのは簡単だけど、ずっとこのままじゃ、店を続けていけない。
……けど、店を続けていけるように援助できるのは、社長にしかできないことだ。
夜、会社に向かった。
佳純さんを助けてもらわなきゃ。
「俺もすっかり、佳純さんのファンだな……」
透き通った夜空に、俺の呟きは吸い込まれた。
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