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第10話
獅子尾コーポレーションとの専属契約について、結果的に言うと、話を受けることにした。
500万円の借金と借金取りに脅される日々。
もうこんな生活、嫌だ。
花屋を普通に営んでいきたい。
高村さんと社長の獅子尾さんが、次の日に来てくれてその時に返事をした。
「受けていただいて嬉しいです。よろしくお願いします」
高村さんは頭を下げてくれた。
獅子尾さんも「ありがとう」と言ってくれた。
契約書にサインをする。
契約書も昨日の内に穴が開くほど読んだけど、こちらが不利になるようなことは書いてなかった。
「それでは、私たちはこれで……」
高村さんは一礼して、車に戻る。
獅子尾さんも車に戻ろうとすると、高村さんが「そうだ!」と声をあげた。
「経理部の方々が、花が萎れてきたため、新しい花が欲しいと言っていました。社長、買っておいてくれますか?」
「はぁ?……そんなの、今すぐ買えば済むことだろうが」
「私は、今すぐ猫島さんとの契約書を本社に届けなくてはいけないので、社長が買ってください。……それとも、こんなお使いもできないんですか?」
「ぐ……」と獅子尾さんは唸る。
高村さん……前々から思ってたけど、社長さんに対してもすごく強気な態度だ。
すごく笑顔なのに、有無を言わせない感じがする……。
高村さんは車に戻り、獅子尾さんを置いて会社に行ってしまった。
取り残された僕らは、何となく気まずい空気が流れた。
とりあえず僕は、「どんな花にしますか?」と聞いてみた。
「花のことは……よく分からないんだ。良かったら、教えてくれないか」
「はいっ!」
怖そうな人だなって思ったけど、いい人なんだと思う。
さっきから、獅子尾さんの顔が赤いような気がするのは気のせいかな?
「どういう色がいいとかありますか?」
「うーん……色……経理部は女性が多いから、ピンクとか……」
「ピンクですね。じゃあ、ピンクのチューリップとかどうでしょう」
僕は試しに何本かチューリップを取って、白いガーベラとグリーンを選んだ。
「チューリップって、赤と白と黄色だけじゃないのか?」
チューリップの歌を思い出した。
怖い顔をしてるけど、なんだか可愛いなと思ってしまう。
「ピンクと紫もあるんですよ」
「知らなかった……」と獅子尾はチューリップを見つめながら呟いた。
「佳純……くんの、花束を毎日見ていると、知らない花や花の色がこんなにもたくさんあることに驚かされる」
毎日見てくれてるのか。
なんだか照れ臭くなる。
「ありがとうございます」
「……っ、こちらこそ、いつも綺麗な花束をありがとう」
ちらりと見ると、獅子尾さんも顔が真っ赤になって、別の方向に目をやっている。
カウンターを挟んで、大の大人が二人赤面している光景はなんだか変な感じ。
花束を作り、獅子尾さんに渡す。
「いくらだ?」
「あの、今日はいいです」
「……何故だ?」
「いつも買ってもらってるし、専属契約までしてもらって……だから、サービスです」
獅子尾さんは、暫く何か考えていたが、首を振った。
「いや、今度作ってほしい花束がある……その時にサービスしてくれ」
「え?……あっ!待ってください!」
獅子尾さんは五千円をぽんと置いて、僕の静止を聞かず早足で出ていってしまった。
――――
「へー!社長来たんだ」
小野くんはカウンターに肘をつきながら聞いた。
「うん。専属契約したから」
「専属契約かー!これから忙しくなりますねっ」
「あのさ……小野くんは、これまで通り来てくれる……?」
恐る恐る聞く。
ほぼ毎日給料なしなのに、文句も言わず働いてくれている。
けど、専属契約をしたら、忙しくなるはずだ。
人手がほしい……なんて、僕は本当に我が儘だ。
「大丈夫ですよ!俺、手伝いにきますよ」
小野くんの人懐っこい笑顔は本当に安心する。
「ありがとう」
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