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第11話
「これ、残りの500万です」
専属契約の三日後、取立て屋の二人が来たため、紙袋にいれた500万を渡す。
「今日こそ払ってもらうぞ」と凄んでやって来た二人は、僕がぽんと500万を出したことに驚いていた。
「あるなら、さっさと出せよな!」
取立て屋は500万を乱暴に僕の手から取り上げると、中身を確認した。
借金に関する書類を渡され、二人の男は去っていった。
僕はふぅ……とため息をついて、カウンターの椅子に座り込んだ。
やっとこの生活も少しは楽になる。
昨日、高村さんに電話して、契約金の半分を少し早めにもらったのである。
もちろん借金のことも話して。
高村さんは真剣に話を聞いてくれて、すんなり了承してくれた。
自分の都合なのに、許してもらえて良かったと僕は安堵した。
「ただ、一つお願いがあって……」
電話越しの高村さんは少し申し訳なさそうな声で、会社までお金を受け取りに来て欲しいと頼まれた。
「銀行振込の手続きに少し手間取りまして、出来れば現金でお渡ししたいのですが、今日は急遽入った会議もあって、お伺いするのが難しいんです。昼の3時からなら、少し時間が取れるのですが……」
「大丈夫です!3時ごろ、伺います」
僕は電話を切り、小野くんに「今日は午前中だけの営業にするためお手伝いは大丈夫です」というメールを打ち、店の入り口に『本日の営業は12時まで』と貼り紙をした。
午前中、何人かお客様が見えて、対応をする。
最後のお客様に花束を渡して、今日の営業は終了した。
お昼ご飯を軽く済ませ、テレビを見たり、花のカタログを見て約束の時間まで時間を潰した。
こんなにゆっくり自分の時間を過ごすのは久しぶりで、何だか嬉しかった。
2時を回ったので、出かける準備をして、店を出る。
本社ビルは確か隣町。
タクシーを使うのはもったいないので、バスを使った。
最寄りのバス停に降りると、オフィス街となっており、外回りの営業マンたちがせかせかと歩いている。
(確か、住所ではここらへんなんだけど……)
契約書が入っていた封筒に本社の住所が印刷されていたため、その封筒だけ持ってきて、改めて確かめながら歩いていると、目の前に一際大きいビルがどんと建っている。
近くまで行ってみると、『獅子尾コーポレーション』と銀色の大きな看板に書かれている。
たくさんの人が出入りしてて、やっぱり大きな会社なんだと改めて感じた。
腕時計を見ると、2時30分。
まだ約束の時間まで30分もある。
あまり早すぎても失礼な気がするし、かといって、うろうろしてたら怪しいし……。
「あれ?佳純さん?」
僕がビルの前で尻込みしていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
振り返ると、小野くんが自転車を引きながら、僕に声をかけてくれた。
「やっぱり佳純さんだ!こんなところで何してんの?」
「実は……」と昨日の高村さんとの電話のやり取りを説明した。
「なるほどねー。じゃあ応接室とかで待たせてもらえばいいじゃん。受付の子に言ったら、通してくれるよ」
「でも……」
「俺も一緒に行くから。さ、行こ行こ!」
僕は小野くんに引っ張られながら、入り口まで来る。
自転車をその辺に停めると、小野くんは僕を引っ張りながら、受付まで行くと、「まりちゃん、ゆきちゃん」と気安い感じで声をかけた。
「あ!小野くん、今日は仕事?」
「淳くんいなくて、寂しかったぁ」
小野くんってやっぱりコミュニケーション能力高いんだな……と思った。
きっとこの可愛い受付嬢の子達とも仲良しなんだろうなと思った。
「ううん、今日は休み!あ、この人、猫島さんって言うんだけど、秘書の高村さんと3時に会う約束してるんだけど、通してくれない?」
二人は僕に気づくと、お辞儀をして「少々お待ち下さい」と言った。
受付嬢の一人、ゆきちゃん(小野くんが教えてくれた)が僕に首から下げる許可証を渡してくれた。
これがないと入れないらしい。
もう一人の受付嬢、まりちゃんは申し訳なさそうに、
「申し訳ありません。只今、会議中でお約束の時間を少し越えてしまいそうとのことでした。応接室までご案内しましょうか?」
と丁寧に対応してくれた。
「そうなんですか……」
待たせてもらおうかなと思っていたら、小野くんが手を挙げて、「俺が案内するよ!」と言った。
「まりちゃん、ゆきちゃん、ありがとう!またねー!」
小野くんは二人に手を振って、またもや僕を引っ張りながら、エレベーターに乗せた。
受付嬢の二人は、小野くんともう少し話をしたかったのか、少し残念そうな顔で手を振っていた。
「……小野くんって、やっぱりコミュニケーション能力高いよね」
「そうかな?でも、人と仲良くなるのは得意な方かな」
確かに、この人懐っこい笑顔をみていると、誰とでも仲良くなれそうだ。
最上階に着き、廊下を右に曲がると、『応接室』と書かれた部屋があり、そこに入った。
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