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第13話

黒塗りの車の中、またもや僕と獅子尾さんは二人きりになった。 高村さんは、「先方に連絡することがあるので、社長が佳純くんを送ってくださいね」と会社に残ってしまった。 どうしよう……何か話すこと…… 「佳純くんは、出掛けたりするのは好きか?」 「え?あ、別に、嫌いではない、です」 獅子尾さんはスーツのポケットから、一枚小さな紙を出して、僕に渡してきた。 「『花の博覧会 アートフラワリウム』……?」 「ウチがスポンサーになっていて、今度の日曜日からなんだ」 「これ……僕に?」 獅子尾さんは少し赤くなりながら、コクリと頷いた。 「ペアチケットで……俺も招待されたんだが、花には疎いから……その、佳純くんとなら、色々勉強になるかと思って……」 ぽつりぽつりと話す姿が何だか、少し可愛かった。 「はいっ、ぜひお供させてください」 外出なんて久しぶりだ。 しかも、大好きな花のことで獅子尾さんの役に立てるなんて……とても嬉しいことだ。 「送っていただいて、ありがとうございました!」 「いや……」 「日曜日楽しみにしています」 「俺も……また連絡する」 獅子尾さんの車を出て、店先でお辞儀をして、見送った。 僕はスマホを出し、車の中で交換した連絡先を見て、僕は日曜日が楽しみで仕方なかった。 ―――― 佳純を送った後、高村を乗せて、獅子虎組の会食に行った。 その途中、高村がちらりと俺の方を見て、 「機嫌良さそうですね?」 と少し笑いながら指摘する。 「……そう見えるか?」 「見えます」 こいつは、いつもいつも俺の心を読んでくる。 まぁ、一緒にいる時間が多い分仕方のないことなんだろうが。 「次の日曜日、出かけるから。急用以外は電話掛けてくるなよ」 「はいはい」 街中を抜けて、閑静な住宅街を更に抜けて、周りに人家のない静かな所に着いた。 広大な敷地の中にこれまた大きな屋敷が建っている。 獅子虎組の本家であり、俺の実家でもある。 大きな木造の、瓦葺きの門があり、その門が開くと、そのまま車は中に進む。 砂利の上を進み、車を停める。 他にも黒塗りの車が多く停まっており、会食が始まっていることが分かった。 俺が車を降りて、屋敷の玄関まで来ると、黒いスーツを着た強面の男達がずらりと並んでいる。 俺を確認すると、男たちは頭を下げる。 「お帰りなさいやし!若!」 声を揃えて、男たちは俺に挨拶をした。 こんな所を佳純が見たらどう思うだろうか。 怖がるか……。 「見せられねぇな……」 俺は誰にも聞こえないよう、小さく小さく呟いた。

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