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第14話
「うーん……」
僕は悩んでいた。
獅子尾さんにアートフラワリウムに誘われ、早くも土曜日。
約束は明日の日曜日だ。
畳の上に服を並べて、何を着ていくか悩んでいた。
「何着ていこう……」
そもそも服なんて、そんなに持っていないし、デザインよりも動きやすさとか機能性を重視しているので、出掛けるとき用のお洒落な服なんて持っていない。
でも、相手は専属契約を結んだ社長さんだ。
さすがにジーンズは不味いかなぁ。
スーツ?
いや、スーツも気張りすぎてるって思われたら、やだし……。
「こんな時、皆はどんな服を着てくんだろ」
ブツブツそんな事を言っていると、
「その水色のシャツとかいいんじゃないっすか?」
いつもの軽い調子の声が聞こえた。
後ろを振り返ると、小野くんがニコニコしながら立っていた。
「え!?小野くん!?何でここに?!」
「何回も呼んだんだけど、全然出てこないから心配しちゃったじゃないっすか~。家の中入ったら、なんかブツブツ言ってるし~」
「今日と明日は臨時休業って言ったよね?」
「暇だったから来ちゃった」
小野くんの可愛い言葉に、僕は仕方ないなと思いながら、お茶を出した。
そして、獅子尾さんにアートフラワリウムという展示会に誘われたことを教えた。
「デートじゃん!」
「デートじゃないよ。チケットが余ってたから、たまたま誘ってくれたんだよ」
「でも、さっき服を選んでるときの佳純さん、デート前日感満載だったよ?」
小野くんはクスクス笑いながら、お茶を飲んだ。
っていうか、デート前日感って何?
「年上の人と出かけることってないから、何を着て行ったらいいのか分からなくて……」
「じゃあさ、服買いに行こうよ!」
「え?今から?」
「今から!あっそーだ!佳純さん、ちょっと待ってて」
小野くんは店の外まで出ると、何やら誰かに電話している。
誰に電話しているんだろう?
しばらくして、店のドアのベルがカランカランた鳴った。
「こんにちは」
そこに現れたのは、高村さんだった。
しかも、いつものスーツではなくて私服の。
「え!?高村さん?!」
「小野くんに車を出すように言われて……それに、話を聞いたらなんだか面白そうだったので」
ニコニコ笑っている高村さん。
やっぱり高村さん、かっこいい。
無地の白シャツに、紺色のジャケットを羽織っており、黒のスキニーズボン。
シンプルなのに、品があって素敵だな。
「佳純くん?どうかしましたか?」
「あっ、いえ……」
不躾に見すぎた……。
服のことで悩んでたから、つい。
「高村さん、とりあえずショッピングモール連れてってよ!」
「ちょっと、小野くん……急に呼び出すなんて、失礼だよ……」
僕が小野くんをたしなめていると、高村さんは「大丈夫ですよ。今日は休みだし」と快く買い物に付き合ってくれることになった。
高村さんの車に乗って、大きなショッピングモールにつくと、早速メンズ服のコーナーに向かった。
思えば、服を買うなんて久しぶりだ。
服を買う心の余裕ができたのが、嬉しかった。
「佳純さんって基本Tシャツにジーパンだよね?」
「そうだね。動きやすさとか汚れてもいい服っていうのを重視しちゃうから、いつも似たような服選んじゃうかな」
花屋って結構力仕事だから、動きやすい服を選んでしまう。
そもそも、服にこだわりがない。
「こういうのはどうですか?」
高村さんは一着シャツを取って、僕に見せてくれた。
白地に水色の小さいドット柄のシャツだった。
「柄物ってあんまり選ばないので、なんか新鮮です」
派手じゃないし、いいかもしれない。
「あ!こういうカーディガンとかどう?」
ベージュの春物カーディガンだ。
「このカーディガン、丈が長いね」
「最近、こういうの流行ってて、コートみたいな感じで羽織れるんだよ」
「へぇ……」
「ズボンは、紺色とかどうでしょう。丈が少しだけ短くて、足首がちょっと見えるところが春っぽいですよ。今履いてるスニーカーにも合いそうです」
小野くんや高村さんにコーディネートしてもらい、結局一式試着することになった。
試着とかいつぶりだろう……。
もしかしたら、大学の卒業式に着ていくスーツを試着して以来かもしれない。
試着してみると、サイズ感もぴったり。
カーディガンはちょっと大きいような気がするけど。
とりあえず二人に見てもらう。
「めっちゃ、いいじゃないっすか!」
「似合ってますよ」
「でも、カーディガン、ちょっと大きいような気がして……」
袖がちょっぴり長いような気がする。
「え~萌え袖っぽくて、いいと思うよ!」
「もえそで?……って何??」
ファッション用語、分かんないよ。
二人におすすめされて、レジに持っていく。
カーディガンも少し大きい方が良いという、小野くんの強い主張で、試着したカーディガンを買った。
……なんか、明日が楽しみになってきた。
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