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第16話

フラワリウム展の入口に行くと、主催者らしき男性と女性が獅子尾さんの前に現れる。 「社長、お越しいただいてありがとうございます!」 「いや……大盛況だな」 チケットブースは長蛇の列で、入るのも時間がかかりそうだ。 「獅子尾さんの広告代理店の方が宣伝に力をいれていただいたおかげです」 「部下に伝えたら、喜ぶと思う」 「社長、こちら、この展覧会のフラワーアートディレクターの花園 薫(はなぞの かおる)さんです」 主催者の男性に紹介された女性、花園さんはとても綺麗な女性だった。 名前も花を扱う人にぴったりの名前だし。 「花園です。お会いできて光栄です」 獅子尾さんと握手をし、ちらりと僕の方を見る。 獅子尾さんはその視線に気づいたように、僕を紹介してくれた。 「こちらは猫島佳純くん。花屋を営んでいて、今度、経営するセレモニーホールと専属契約をしたんだ」 「専属契約……」 花園さんはちらりとまた僕の方を見た。 何だか、視線が怖い……ような気がする。 「私も花屋を傍らでやってるんです。同業ですね。よろしくお願いします」 「あっ、よろしくお願いします……」 握手をする。 あれ?なんか、すごい力で握られてるような気がする……! 「それでは、失礼します」 花園さんと主催者の人は挨拶をして戻ってしまった。 っていうか、あの花園さんって人、僕に対して怒ってるのかな? 初対面だし、何もしてない、よね? 「佳純くん、大丈夫か?」 「だ、大丈夫です!それにしても、すごい人ですね。ぶつかっちゃう……って、わぁ!!」 並んでいた人達が一斉に動いて、僕は獅子尾さんにぶつかった。 「ご、ごめんなさいっ!」 獅子尾さんにぶつかっちゃった……! なんて失礼なことをっ。 「いや。佳純くんも大丈夫か?」 「大丈夫です……っ」 「人波に流されそうだな……俺に掴まってもらっても構わない」 「え!?」 確かにこの人波にのまれたら、またぶつかってしまうだろうし、はぐれそう。 かといって、獅子尾さんのどこに掴まれば……。 僕は考えに考え、獅子尾さんのポロシャツの裾を「失礼しますっ!」と掴んだ。 「……そうきたか」 「え?」 「いや、こっちの話だ」 獅子尾さんは前を向いたっきり、こちらを見てくれなくなった。 どうしよう……さすがに怒ったよね。 親切心で言ってくれた言葉を真に受けて、呆れてるかな。 ハラハラしながら列で待つこと10分。 意外と早く入場できた。 入場すると、少し薄暗い展示会場に咲く花に僕は圧倒された。 「わぁ……すごい……」

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