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第18話

最近、ハーバリウムやフラワリウムというのが流行っているのは知っていた。 ハーバリウムはハーブなどの植物をガラスの器の中に入れてインテリアのように楽しむもの。 枯れないように、ハーバリウム用のオイルに入れる。 フラワリウムはハーバリウムのお花版だ。 そして、今、僕の目の前にはそれはそれは大きなガラスの球体があり、その中に花が飾られている。 中には液体が満たされ、キラキラとしたラメが入っており、スノードームのように上から降ってくるみたいで、とても綺麗だ。 「すごい……!どういう仕組みなんだろ?」 僕は夢中でその球体の中でキラキラとふる銀色のラメと中で咲く花達を見ていた。 どうやら、春の花を集めているらしい。 ガーベラ、チューリップ、たんぽぽまである。 「獅子尾さん!トルコキキョウがありますよっ」 僕は掴んでいた獅子尾さんの服の裾をくいくいっと少しだけ引っ張った。 「どれだ?」 「あの白い花です」 「……俺の買ったものと少し違うな」 そのピンクのトルコキキョウは何枚にも花びらが重なっており、パット見、バラのようにも見える。 「品種が違うんだと思います。あのトルコキキョウも人気なんですよ」 「そうなのか」 他の展示は電球を模したガラスの器の中に、枝とその先に房状の黄色の花が入っている。 「これは何の花だ?」 「これは、ミモザですね」 「ミモザ……?」 「アカシアの仲間です。ミモザの花言葉は『秘密の恋』なんですよ」 「秘密の恋……」 獅子尾さんはミモザを見つめながら、花言葉を呟いた。 まるで覚え込むように。 「……君は花に関して、本当にたくさんの知識を持っているな」 え、偉そうにうんちくを言い過ぎたかな……。 「う、うるさくて、ごめんなさい……」 「いや、感心してたんだ。本当に花が好きなんだな」 ふわっと優しく笑う獅子尾さんは、本当にかっこよくて、つい見とれてしまう。 いつも無表情で冷たい感じだからかな……。 そういうの、なんて言ったかな……、確か小野くんが言ってて……あっ! 「ギャップ萌え!」 「ギャップ……もえ?」 僕は思わず心の声を口から出てしまった。 うわぁ、獅子尾さんが不思議そうな目で見てるよぉ……。 「あ、あの、ごめんなさいっ、僕失礼なことを……っ」 「いや、別に……気にしていない」 やってしまった……。 獅子尾さん、呆れてるよな。 中を一通り見て、会場を後にする。 時計を見ると1時前。 二時間以上、見てたんだなぁ。 「本当に凄かったですっ!感動しちゃいました!」 お花のアートなんて、なかなか見る機会がないので勉強になった。 ミモザの花は本当に可愛かったなぁ。 今度、店にも置いてみようかな。 「佳純は、花を見てるとき、本当に楽しそうだな」 「え?そうですか?……名前」 今、佳純って…… 獅子尾さんは、はっとしたように口に手を当てる。 「すまない……呼び捨てにして」 「いえ、僕は構いませんよ。『佳純』って呼んでください」 女っぽい名前が嫌だった時期があったけど、獅子尾さんに呼ばれると何だかくすぐったい。 「俺も……『(のぞむ)』で構わない」 「望……さん?」 獅子尾さん……望さんはこくりと頷いた。 「佳純、お腹空いてないか?」 「あ、少し……」 「近くのレストランを予約してあるんだ」 す、すごい……!予約してくれてたなんて……なんか、それってすごくデートっぽい。 「あ、ありがとうございます!」 「歩いて行ける距離だから、そのまま向かおう」 「はいっ!」 僕達二人は展覧会の感想を言い合いながら、予約したレストランに向かった。

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