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第20話

イタリアンレストランを出た後、ドライブがてら遠回りをして帰った。 家に着いたのは夕方四時頃。 「今日はありがとうございました。すごく楽しかったですっ」 「俺も、久々に楽しい休日だった」 にこりと笑う望さん。 僕はもう望さんの笑顔のファンだ。 男の僕でもドキドキするんだから、女の子なんてころっと恋に落ちちゃうんだろうな。 「僕もです。……それじゃあ、明日からも仕事頑張りましょうね」 少しだけ名残惜しかったけど、車のドアを開けて、外に出ようとした。 「来週」 「え?」 「来週、……食べに行っていいか?」 手料理、と少し恥ずかしそうに望さんは言った。 来週、手料理、約束…… 僕はその言葉を繋ぎ合わせた。 来週も会う約束をしたいってこと? 「……だ、大丈夫ですっ。夕御飯でもいいですか?」 「構わない」 「じゃあ……来週の日曜日、5時くらいでどうでしょうか?」 「あぁ、それでいい。……それじゃあ」 「はい。あ、食べたいもの、また連絡してください」 どうせなら好きなものを作ってあげたい。 「分かった」と望さんは短く答えたのを聞き、もう一度挨拶をして、ドアをバタンと閉めた。 「来週か……」 車を見送ったあと、家のカレンダーに丸をつけ、 『望さん 夕食5時~』 と日にちの下に書き足した。 どんなリクエストが来るか、今から楽しみだ。 ―――― 高層マンションの一角。 花園薫は、人相の悪い男二人から写真を受け取った。 「フラワーショップ猫島ね……こんな小さな店に私は負けたの?」 薫は納得いかなかった。 獅子尾コーポレーションに潜入することが本来の目的であったが、自分の『フラワーアートディレクター』という肩書きと社員100人を越える花屋を営んでいる自分が、町の小さな花屋に負けるなんて、納得いかなかった。 「薫~。シャンプーきれたー」 と部屋の奥から呑気な声が聞こえる。 「清治(せいじ)、今大事な話してるから」 「大事な話~?」 人相の悪い男たちは、風呂場から出てきた男、清治にお辞儀をした。 清治はバスタオルで頭を拭きながら、薫の持っていた写真を二枚奪った。 「あっ、ちょっと!」 「猫島……佳純?へぇ……男なんだ」 「かわいい女じゃなくて残念でした」 「ふーん……でも、結構キレイ系の顔してるじゃん」 清治は写真の男性、猫島佳純の顔を指でなぞりながら、ニヤリと笑った。

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