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第21話

「え?また会うの?」 小野くんは運ばれてきた花をバケツに入れながら、驚いていた。 「会うっていうか……ごはん食べるだけだけど」 「どこで?」 「ここで」 「えー!?手料理振る舞うの!?」 小野くんは、「俺だけの特権だと思ってたのにぃ!」と何故か悔しがっている。 「別に特権なんて、そんな大層なものじゃないでしょ?」 「たいそーなもんなの!俺にとっては!」 唇を尖らせながら、いじける小野くんは何だか可愛い。 「はいはい。今度小野くんに作ってあげるよ。オムライス」 「まじで!?やったー!」 小野くんが万歳して大喜びしている。 オムライス好きなの知ってたけど、そんなに喜ぶなんて、嬉しいけど……やっぱり大袈裟だなぁ。 カランカランと入り口のベルが鳴る。 「いらっしゃいませ!」 キレイな女性が入ってきた。 あれ?この人……。 「こんにちは」 「あ、えっと……花園さん?」 確か、展覧会の時に会ったフラワーアートディレクターの人だ。 「覚えていてくれたんですね。光栄です」 優雅に笑う彼女。 でも、この人はちょっと苦手だ。 握手した時、敵意みたいなものを感じ取ったからだ。 「あの、今日は何かご用ですか?」 「花を買いに来たんですよ。ここは花屋さんでしょ?」 にこにことしているが、言葉には刺がある。 ここで怯んじゃダメだ。 平常心、平常心。 「えっと、どんな花をご所望ですか?」 「そうね……チューリップを使って花束を作ってくださる?」 「色はどうしましょう?」 「任せるわ」 僕はチューリップやガーベラ、カスミソウなどを選び、花束にする。 その間、花園さんは小野くんと会話していた。 「あなた、アルバイトさん?」 「そうですよ」 「おいくつ?」 「21っすけど」 「まぁ!若いのね。花屋はけっこう力仕事だから、あなたみたいな若い人がいたら助かるわねぇ。うちも花屋やってるの。うちにもバイト来てみない?」 この人、勝手に何言ってるんだ……と僕は花束を作りながら、沸々と怒りがこみ上げてくる。 でも、小野くんには給料もあげずにタダ働き同然で働いてもらっている。 こんなところより、花園さんの所の方がいいって思っちゃうかも……。 「いや、俺、他にも掛け持ちしてるんで、これ以上は無理っすね~」 「ここより、給料たくさんあげるし、お客さんもたくさん来るからやりがいあるわよ」 小野くんはにこりと笑う。 「お断りします!俺は店長の人柄とこの店が好きなんで!!」 思わず、ぱっと小野くんを見てしまった。 小野くんはこっちに気づくと、ニッと少しいたずらっぽく笑う。 「そう……残念だわ」 花園さんは顔は平静を保っているが、言葉は少し悔しそうに聞こえた。 「花園さん、花束できました」 花束を渡すと、花園さんは何かをチェックするように花束をジロジロみると、財布から三千円を出す。 「こんなもんよね?」 「そうですね……2500円なんで、お釣持ってきます」 「結構よ。失礼するわ」 花園さんは少し怒ったように、荒々しくドアを閉めて帰ってしまった。 何だったんだろう……。 「佳純さん、あの人誰?」 「この前、望さんと行ったフラワリウム展のフラワーアートディレクターの花園さんって人だよ」 「ふぅん……。何か感じ悪かったっすね」 「……何か、初対面から嫌われてるみたいなんだよね。理由は分からないけど」 僕は花園さんが出ていったドアを見ながら、何か失礼なことしたかなぁ?とぼんやり考えていた。 「っていうか、いつの間に名前呼び?!」 「え?」 「望さんって言った!日曜日何かあったの!?」 小野くんは僕にぐいぐい詰め寄ってくる。 「な、何もないよ!」 「え~、俺のことも『淳くん』って呼んでよ」 「この話は終わりっ」 僕は小野くんの話を振り切って、僕は店の奥に引っ込んだ。 ―――― 夕方、小野は高村に電話をした。 いつもの報告である。 「もしもし、高村さん?小野です。……今日、花園って変な女が来ました。この前、社長と行った展覧会で会ったって言ってたけど……。はい、もう少し様子を見ます」 小野は電話を切った。 (なーんか、嫌な予感がするんだよなぁ) 小野の『掃除屋』としての勘だ。 「あっ!」 小野は重要なことを思い出した。 (社長に『展覧会の時何があったんですか?』って聞くの忘れた~!)

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