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番外編:猫島佳純の休日 その2
街を適当に歩きながら、ファミリーレストランを見つけたため、そこに入った。
まだ空いている時間だったこともあり、待たずに座ることができた。
「佳純さん、何にする?」
「うーん……和風ハンバーグセットにしようかな。小野くんは?」
「俺はね~、デミグラスソースのオムライス!」
相変わらず、オムライス好きだなぁ。
小野くんはオムライスとかハンバーグとかが好きで、僕の家でご飯を食べるときもそういうものをリクエストしてくれる。
「池ちゃんは?」
「これ」
指差したページはハンバーグとステーキのページ。
どれを頼むのかな?
「池ちゃん、ダメだって!メインは2品まで、サイドメニューは5品までって約束しただろ?」
「えー……」と残念そうに呟く池村くん。
まさか、そのページの品を全部頼む気だったのか……。
「食費だけで、どんだけ掛かってると思って……また社長に怒られるし……」
社長って、望さんだよね?
「食費って、望さんが出してるの?」
そう僕が聞くと、慌てたように小野くんが首を振った。
「いやいや!えっと……仕送りのお金、あんまり無駄遣いするなよって社長に言われるんだ!」
「あぁ、なるほど」
望さんは、そんなことまで心配してくれるんだ……。社員思いなんだなぁ。
「で、池ちゃん、早く決めて!」
「んー……チーズハンバーグセットとスペアリブセット。サイドはシェフの気まぐれサラダ(ファミリーサイズ)、ポテト(ファミリーサイズ)、焼おにぎり一人前と、ミニラーメン単品、絶品プリン一つ……飲み物は水をピッチャーで」
すらすらと淀みなくメニューを読み上げ、僕は唖然とした。
そ、そんなに大丈夫なのかな?
「一応、メイン2、サイドは5で収めたな。じゃあ、頼んじゃいますよ」
小野くんは呼び出しボタンを押し、店員さんに全員のメニューを伝える。
池村くんのメニュー、全部覚えてるなんて、小野くんすごい記憶力だな。
サイドメニューがすぐに運ばれてきたが、シェフの気まぐれサラダもポテトも焼おにぎりもミニラーメンも速攻で無くなった。
見ていて気持ちいいくらいの食べっぷりだ。
メインが運ばれ、店員さんが一つ一つメニュー名を言いながら、机に並べる。
池村くんの前にメインが2つ置かれ、黙々とチーズハンバーグを食べ始めた。
僕も和風ハンバーグを一口食べる。
「あっ、そーだ!ちょっと、皆で写真撮りましょうよ」
小野くんはスマホを取り出した。
「別にいいけど。急にどうしたの?」
「いいから、いいから……じゃ、撮りますよー」
三人全員が入るように少し上から撮った。
スマホのカメラ音が聞こえ、写真を確認する。
「よく撮れてる!」と僕にも見せてくれた。
……確かに上手に撮れてるけど、奥の池村くんは黙々とスペアリブを頬張っていた。
「これを、メールに添付して~、送信っと!」
「誰に送ってるの?」
僕が小野くんに聞くと、にししっと笑って、
「すぐ分かるよ」
そう返事をされた瞬間、小野くんの電話が鳴った。
電話に出ると、「やっぱりすぐにかけてくると思った」と電話の相手に返事する。
しばらく小野くんが電話で話していると、スマホを僕の方に渡してきた。
「佳純さんと話したいって」
「誰?」
「大の佳純さんファンの人」
僕がよく分からないまま、スマホを耳に当てる。
『おい、小野……適当なこと言ってんじゃねぇぞ!』
わぁ……望さん、なんか怒ってるけど……
「あの、こんにちは。望さん。猫島です」
僕が恐る恐る電話を取って、話しかけると、望さんは少し言葉につまった。
『……か、佳純……こんにちは。何で、小野と池村と食事に?』
「出掛けてたら、たまたま街で会って……」
『そうか……、お、おいしいか?ハンバーグ』
「はい、おいしいです。また食事いきましょうね」
『いいのか?俺とも食事に行ってくれるのか?』
「もちろんです。日曜日も楽しみにしてます」
『……日曜日は、肉じゃがが食べたい』
そう言えば、まだリクエストを聞いてなかったな。
肉じゃが好きなのかな?
「分かりました。用意しますね」
『よろしく頼む。……小野に代わってくれ』
「はい」と小野くんにスマホを返す。
「はーい。もしもし」と小野くんが元気に返事をする。
「そんな怒んないでくださいよ。佳純さんと話せて嬉しかったくせにぃ。あっそうだ!夕御飯一緒に食べたらいいじゃないですか!……どこでって……そりゃあ、社長のマンションにきまってるじゃないですか!なんか頼んどいてくださいよ。……佳純さんも行きますよね?」
急に話を振られて、言葉につまる。
望さんの家でご飯食べるって……ご迷惑なんじゃ……。
「えー……でも、ご迷惑なんじゃ」
「佳純さんも行くって!」
「え!?行くなんて一言も……!」
勝手に話を進められた!?
どうしよ……図々しい奴だなんて思われてないかな……
「……よっしゃ!じゃあ、何か頼んどいて下さいねー!よろしくお願いしまーす」
プツリと電話を切る小野くんに、僕は苦言を呈した。
「小野くん、強引すぎ!望さん、怒ってなかった?」
「んー?初めは何だかんだ言ってたけど、佳純さんの名前出したら、『佳純が来るなら……いい』って言ってたから、全然OK!」
望さんの声真似をしながら、小野くんはオムライスを頬張った。
優しい社長さんで良かった……と僕は胸を撫で下ろした。
安心したらお腹が減ったので、僕も和風ハンバーグを食べ始めた。
「ごちそうさま」
……池村くんはデザートのプリンまで完食していた。
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