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番外編:猫島佳純の休日 その3

〈獅子尾目線〉 商談後、高村とランチをしていると、ポケットに入れていたスマホが震えた。 小野からのメールだ。 メールを開くと、『ランチなう!』というタイトルに写真が添付されている。 何気なく、その写真を見て、俺は驚いた。 それは、満面の笑みでピースしている小野と奥に黙々とスペアリブらしきものを頬張っている池村、テーブルを挟んだところに少し困ったように笑っている佳純が写っていた。 な、何で佳純が、小野たちと食事を……? 向かいに座っている高村が、怪訝そうな顔で、「眉間に皺寄せて、何見てるんですか?」と聞いてきたが、今は説明している暇はない。 スマホを操作し、小野に電話する。 3コール目で小野が電話を取った。 『やっぱり、すぐ掛けてくると思った』 小野の能天気な声に、少しイラついた。 「小野てめぇ、何で佳純と食事してんだ」 『佳純さんと運命的な出会いをしまして……このオムライス、うまいですよ!あ、でも、佳純さんのオムライスの方がめちゃうまかな~』 こいつ、明らかに自慢してるな。 絶対シメる。 俺はまだ佳純の手料理を何も食べてないのに……。 「小野……、お前次会ったら、シメる……」 脅しのつもりで、一段低い声でそう言うも、小野は知らんふりするように、『え?佳純さんと代わって欲しい?』なんて、ふざけたこと言ってきやがった。 「おい、小野……適当なこと言ってんじゃねぇぞ!」 小野に向かって、怒りの言葉をぶつけると、 『あの、こんにちは。望さん。猫島です』 柔らかな佳純の声が聞こえ、俺は一瞬言葉につまった。 聞きたかった声。 今日は花屋が定休日だったから、佳純の声も姿も見聞きできず、俺は気分が落ちていた。 「……か、佳純……こんにちは。何で、小野と池村と食事に?」 『出掛けてたら、たまたま街で会って……』 「そうか……、お、おいしいか?ハンバーグ」 もっとマシなこと聞けないのか……俺。 『はい、おいしいです。また食事いきましょうね』 優しい言葉に俺は天にも昇るほど嬉しかった。 「いいのか?俺とも食事に行ってくれるのか?」 『もちろんです。日曜日も楽しみにしてます』 日曜日は、佳純の家に行って、手料理を振る舞ってもらう予定だ。 今、俺が最も楽しみな予定だ。 そういえば、まだ食べたいものを伝えていなかったな。 「……日曜日は、肉じゃがが食べたい」 昔から煮物が好きで、その中でも肉じゃがが大好物だった。 『分かりました。用意しますね』 「よろしく頼む。……小野に代わってくれ」 佳純との穏やかなやり取りに、心癒された後、小野に代わってもらうように伝える。 ……できたら、ずっと話していたいが。 「はーい。もしもし」と小野のふざけた声が聞こえる。 「てめぇ、急に佳純に代わりやがって……!」 『そんな怒んないでくださいよ。佳純さんと話せて嬉しかったくせにぃ。あっそうだ!夕御飯一緒に食べたらいいじゃないですか!』 「はぁ!?どこで食う気だよ?」 『どこでって……そりゃあ、社長のマンションにきまってるじゃないですか!なんか頼んどいてくださいよ。……佳純さんも行きますよね?』 「おい、何勝手に……」 『佳純さんも行くって!』 ……佳純も?俺の部屋に来るのか? 俺は悶々と考えに考えた。 いや、実際はそんなに長いこと考えて、いなかったと思う。 「佳純がいるなら……いい」 『よっしゃ!じゃあ、何か頼んどいて下さいねー!よろしくお願いしまーす」 小野は俺の返事を聞くと、電話を切った。 ツーツーという音が空しく、俺の耳に響く。 「……今のは小野くん?」 料理を食べ終わり、口を拭く高村は何となく状況を察しているらしい。 「今夜、小野たちが俺の部屋に来て、夕御飯を食うらしい……」 「それはそれは……どこか適当にテイクアウトしますか?」 「あぁ」と短く返事をすると、俺のマンションの近くの中華屋に電話し、テイクアウト7人前も頼んだ。 「おい、そんなにいらねぇぞ」 「池村くんもいるんでしょ?人数分プラス2くらいしとかないとダメでしょ」 「……確かに」 池村……あいつの胃袋は本当にブラックホールだからな。 支給する食費の上限を軽く越す時があるくらいだ。 「社長。私は4時から時間休を使わせてもらいますね」 「は?何でだ」 「社長のマンションで佳純くんたちと待ってます。先に準備しておいた方がいいでしょ?残業しないよう、定時で上がってきてくださいね」 出来すぎる秘書に、俺は時々怖くなる。 ただ、楽しみが増えた。 佳純に会える。 佳純に会えない水曜日が憂鬱で仕方なかったが、夜のことを考えると午後からの仕事もそつなくこなせるような気がした。

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