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第22話
約束の日曜日。
僕は仕入れてきた花をパチンパチンと切っていた。
リズムよく、綺麗に切れると、何だか良いことがありそうな気がする。
「なーんか、佳純さん、楽しそう……」
小野くんの鋭い勘に手元が少し狂った。
短く切りすぎてしまった……。
「そんなこと無いけど」
「社長に会えるの楽しみなんでしょ。隠さなくてもいいのにさ」
楽しみだよ。
だって、ご飯は一人で食べるより、誰かと食べた方がおいしいもん。
……小野くんには恥ずかしくて言えないけどね。
「社長も楽しみにしてるんだろうな……」
ポツリと呟いた小野くんの独り言に、僕は気がつかなかった。
――――
お店を15時に閉めた。
前々からお店の前にお知らせは貼ってあったので、常連さんはお昼からはあまり来なかった。
これから買い物に行って、材料を買いに行かなければ。
「俺も肉じゃが食べたかった……」
今日は何やら小野くんが頑固だ。
カウンターの机に顔を引っ付けて、僕の顔を恨めしそうに見上げている。
「しょうがないじゃん。さっきバイト先から電話かかってきたんでしょ」
30分前のこと。
望さんの会社から電話があって、今日シフトに入るはずだった人が風邪で休んでしまったらしい。その代わりに小野くんが出ることになった。
「あーあ俺も食べたかったなぁ……食べたかったなぁ……」
そんな子犬のような目で見られても……。
「分かったよ。じゃあ次仕事に来てくれたときに作ってあげるから、今日は我慢してね」
「本当!?やったー!」
小野くんの頭に犬耳が見えてしまった。
小野くんと別れ、僕はスーパーに向かう。
確か、近くのスーパーがじゃがいもと玉ねぎを安売りしてて、肉はもう少し足を伸ばしたところが安かったはず。
今日の新聞のチラシを片手にスーパーに行くと、もう数が少なかったが、じゃがいもと玉ねぎをゲットすることができた。
あと、他にも少なくなった調味料や飲み物などを買って、スーパーを出ると、青いスポーツカーが止まっていた。
何だか少し不釣り合いな感じだなぁと見ていたら、窓が開いて、「佳純」と呼び掛けられる。
「望さん!?どうしたんですか?」
「近くを通りかかって、佳純を見かけて……待ってたんだ」
「そうだったんですか……」
オールバック、サングラスにスーツ。
相変わらずかっこいい。
スーパーの駐車場にスポーツカーが停まってて、さらにこんなかっこいい人が乗ってたら、さぞ色んな人に見られただろうな。
「買い物は済んだのか?」
「あ、あとお肉を買うだけです」
「……ここのスーパーでは売ってなかったのか?」
望さんは首を傾げる。
「もう少し行ったところのスーパーの方が安く買えるんで、そっちに行きます」
「そうか……良かったら、乗っていかないか?」
「いいんですか?」
「あぁ。佳純の家に邪魔するしな」
お言葉に甘えて、車に乗せてもらった。
スーパーに着くと、望さんもついてきてくれた。
かごを持とうとすると、「持つ」と言われ、手からかごを取られてしまった。
オールバックでスーツ姿の背の高いかっこいい男性がスーパーのかごをもって、肉を見ている姿は、……その、何というか、不思議な感じがした。
「牛肉か?」
「いつもは豚肉なんですけど、牛肉も美味しいですよね」
望さんはぽいっと値段も何も見ずに牛肉をかごの放り込んだ。
しかも、お高めのものを……。
「望さん、それ、ちょっと高いので……こっちの方が……」
と僕は少し安めの牛肉に変えようとするが、望さんは「俺が払うからいい」と言って変えてくれなかった。
「え、でも、望さんお客様なのに……」
「この値段で佳純の肉じゃがが食えるなら安いもんだろ」
望さんは薄く笑った。
うう……その笑顔で言われたら、何も言えなくなっちゃう。
お言葉に甘えて、牛肉を買ってもらい、帰宅した。
さぁ、肉じゃがを作ろう。
望さんに座布団の上に座ってもらい、お茶を出して待っててもらう。
野菜を切っていき、鍋で牛肉を炒める。
………何やら視線を感じる。
後ろをちらりと見てみると、ちゃぶ台の前で待っている望さんは僕の背中をガン見していた。
すごく見てる……。
口に合わなかったら、どうしよう。
煮込み終え、お皿に移す。
ご飯をよそって、昨日作った小松菜のお浸しと自分で浸けたキュウリの浅漬けを出した。
「どうぞ」
「いただきます」
望さんは肉じゃがのじゃがいもを口に含んだ。
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