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第23話

望さんはひたすら無言で、肉じゃがや小松菜のお浸しをパクパクと口に運ぶ。 早食いではなくて、ちゃんと噛んで食べてるんだけど、その勢いがすごい。 その見事な食べっぷりに、僕は唖然とする。 ……あっという間に食べ終わってしまった。 僕はまだ半分以上残っている。 箸を置き、手を合わせ、「ごちそうさまでした」と言ってくれた。 僕も「お粗末様でした」と軽く頭を下げる。 「美味しかった……。こんな美味しい肉じゃが久々に食べた」 「普通に作っただけですよ?」 「でも、美味しかった」 空になった皿を見つめ、優しく微笑む望さんは懐かしそうな、でも少し寂しそうな感じがした。 「肉じゃが、お好きなんですか?」 「……昔、祖母がよく作ってくれた。小学生の時、両親の仕事の関係で預けられたことがあってな。祖父は厳しい人だったけど、義理人情のある人で、祖母はとても優しい人だった。それまでろくに手料理なんて食べたことなくて、煮物もあまり好きじゃなかったんだが、何故か祖母の作る肉じゃがは好きでな。初めて食べたときは衝撃だった」 望さんがこんなにたくさん喋っているのを聞くのは初めてだった。 お祖母さんの肉じゃが、好きだったんだなぁ。 「佳純の作った肉じゃがは、祖母の作ってくれた肉じゃがに似てる……懐かしい味だ」 「……良かったです。そう言ってもらえて」 じんわりと口に広がる肉じゃがを噛み締めながら、僕も残りのご飯を平らげた。 「佳純、明日高村から話があると思うが、早速仕事を頼みたい」 食事が終わり、温かいお茶を湯呑みに注ぎ、望さんの前に出した。 「お仕事ですか」 初仕事だ。 「結婚式場のオープン記念パーティーがあってな。そこの花を頼みたいと思っている」 「はい。どういう花を希望されるかはもう決まっているんですか?」 望さんはお茶をすすると、「実はプロのフラワーアートデザイナーに頼んであるから、その人と相談して欲しい」と言われた。 「デザイナーさんですか」 「フラワリウム展で会った、花園という人だ」 僕は心の中で、「うっ……」と思った。 正直、あの人は苦手だ。 でも、これは仕事だし、苦手な人だからなんて理由で断れない。いや、専属契約でお金も半分すでにもらっているのだから、断れるはずもない。 僕は精一杯の笑顔を作って、「頑張ります」と答えた。 ―――― 〈獅子尾目線〉 俺が佳純の家を出て、自宅に戻ると、高村がソファに座っていた。 「おかえり」 「何だ、お前またここにいたのか」 「美味しかったですか?」 何もかも見透かしたような幼馴染みの目は誤魔化せない。 誤魔化したことなど一度もないが。 「美味しかった。すごく」 「それは良かった。……ところで、あのデザイナーのことですけど、本当に大丈夫なんですか?」 花園とかいうデザイナーのことだろう。 話は小野から聞いていた。 何やら、佳純に当たりが強いらしい。 「大事な佳純くんに何かあったら……」 「俺が守る」 高村の言葉を遮るように言いきる。 そうだ、佳純は俺が守る。 傷つけられないように、見張らなければならない。

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