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第24話
次の日、いつものように花を買いに来た高村さんが、「もしかしたら、社長から聞いているかもしれませんが……」と話し始めた。
「8月10日に結婚式場のオープンが決まりまして、オープンパーティーをすることになりました。内覧会も兼ねていて、結婚を考えているカップルの方も抽選で参加することになっています」
高村さんから、結婚式場の完成予想図のイラストを見る。
わぁ……すごく綺麗だ。
チャペルやガーデンウエディング、さらには和装婚もできる和風の建築も兼ね備えているらしい。
「すごいですね……」
「ウエディングプランナーの方々や建築家の方などに相談して、こういう形になりました」
こんな大きな結婚式場の専属花屋になったんだから、頑張らないと!
心の中で気合いを入れていると、パーティーの計画書の「フラワーデザイナー」の欄に花園さんの名前を見つけ、少し気合いが萎んだ。
「来週の月曜日にデザイナーの花園さんと飾る花の相談をして欲しいのですが、都合は大丈夫ですか?」
「あっはい!大丈夫です!」
苦手な人がいるからって、やる気を削いじゃダメだよね。
せっかく仕事を貰えてるんだから、期待に応えないと……。
「佳純くん。困ったことがあったら、必ず私や社長に言ってくださいね」
「え?」
「私たちは佳純くんの味方です」
ノンフレームの眼鏡の奥の瞳は、いつもの柔らかな笑顔ではなくて、真剣な瞳だった。
僕は「はい」と答えた。
優しい人たちで良かった。
迷惑かけないように、頑張ろう。
でも、もしどうしようもなくなったら、相談しよう。
僕たちは力を合わせて、パーティーを成功させないといけないんだから。
次の週の月曜日がやって来た。
望さんの会社、久々だな。
下から見上げると、首が痛くなるくらい大きい。
受付に行くと、前に会社に来たときに会ったまりちゃんとゆきちゃんがいた。
「あ、あの、すみません、フラワーショップ猫島です。今日結婚式場のことで打ち合わせにきて……」
「少々お待ち下さい」
まりちゃんが電話し、ゆきちゃんが許可証を渡してくれた。
「第二秘書の松岡がご案内状しますので、少々お待ち下さい」
第二秘書ってことは……高村さんじゃないのか。
もしかして、この前ケーキを運んできてくれた人かな。
暫く、入り口の横で待っていると、スリムなスーツを着こなした美人な女性が現れた。
黒いフレームの眼鏡をかけており、口元にはほくろがあった。髪は後ろでお団子にしてまとめている。
「お待たせしました。第二秘書の松岡です」
松岡さんは一礼し、名刺を渡してくれた。
『獅子尾コーポレーション 第二社長秘書
松岡 百合 』
「あ、フラワーショップ猫島の猫島佳純です!よろしくお願いします」
僕も頭を下げた。
美人だけど、あまり表情を変えず、クールな感じだ。
「会議室でミーティングを行いますので、こちらへ」
誘導されるがまま、エレベーターに乗り、三階の会議室に通された。
そこには望さんとスーツを着た若い男性と花園さんがいた。
「猫島さんがいらっしゃいました」
「あっ、よろしくお願いします!」
僕は頭を下げた。
望さんは、僕に向かって少しだけ笑いかけてくれた。
……少し緊張がほぐれた気がする。
「ミーティングを始めるか」
望さんは、他の人たちに椅子をすすめ、皆が着席した。
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