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第25話
初の顔合わせなので、それぞれ自己紹介をする。
スーツの男性以外は知っているけど、この人はどんな人だろう。
「はじめまして!手塚 友則 と言います。今回、この結婚式場のウエディングプランナーの主任を任されました。どうぞ、よろしくお願いします!」
明るい表情で自己紹介をする手塚さん。
背は僕より少し高くて、髪型は短めで、さっぱりしている。
爽やかな好青年と言った感じだ。
僕と同じくらいか、年上くらいかなぁ。
若く見えるけど、主任を任されるなんてすごいな。
「今回は結婚式場『JUNO 』のオープニングパーティーの流れについて、ミーティングを進めていきたいと思います。お手元の資料をご覧下さい」
秘書の松岡さんはそつなく進めていく。
簡単に説明すると、日にちは8月10日で、内覧会も兼ねている。
抽選で選ばれた250組のカップルが内覧と結婚式の相談に来るらしい。
また500名ほどのウエディング関係者や記者などが集まり、合わせて1000人規模のパーティーになるとのこと。
建物自体は一ヶ月前に完成しており、細かい内装工事をしてもらっている段階。
僕の主な仕事は、花の発注と運搬作業。
花園さんのデザインが固まったら、注文を受ける予定だ。
「……ここまで、ご質問はありますか?」
僕は特になかったが、他のお二人はいくつか質問をしていた。
「それでは、今日はここまでにしたいと思います。お疲れ様でした」
それぞれ解散すると、後ろから「猫島さん」と花園さんが話しかけてきた。
「この前はフラワリウム展に来てくれてありがとうございました。今回、仕事をするのも何かの縁。よろしくお願いしますね」
名刺を渡される。
花のイラストがワンポイントで印刷されたきれいな名刺だった。
「こちらこそありがとうございます。……すみません、名刺持ってなくて……」
「あぁ……町のお花屋さんですものね……」
大袈裟にため息をつき、少し憐れんだ目線を送られる。
……やっぱり、言葉に刺があるような。
「電話番号だけ教えてくださる?」
花園さんは携帯を出した。
僕はお店の電話番号とFAX番号、携帯の番号を教えた。
「ありがとうございます。それじゃあ、また」
「はい……よろしくお願いします」
花園さんは颯爽と歩き去ってしまった。
僕も帰ろう……と廊下を歩いていると、「佳純」と肩を叩かれた。
「あ、望さん……」
「佳純、今晩空いてるか?」
「今晩ですか?はい、大丈夫ですけど」
「7時に店まで迎えに行くから、ご飯は食べずに待っていてくれ」
望さんはそれだけ伝えると、踵を返して去ってしまった。
今夜7時に何があるんだろう……。
――――
明日のお店の準備を終えて、僕はカウンターで待っていた。
携帯が鳴って見てみると、『お疲れ様。着いた』という短くも、望さんらしいメールが届いた。
お店を出ると、いた。青いスポーツカーだ。
ドアをとんとんと叩いてみる。
「こんばんは。お疲れ様です」
「お疲れ様。乗ってくれ」
僕は言われるがまま、スポーツカーに乗った。
都会の町並みが流れていき、次第に閑静な住宅街に入っていく。
「あの……どこ行くんですか?」
「……秘密基地」
「え?」
望さんには似合わない子どもっぽい言葉に僕は驚きながら、車はどんどん進んでいった。
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