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第27話
望さんの秘密基地であるレストラン『ポタージュ』を出て、家まで送ってもらった。
最後に「頑張ろう」と言ってくれたのが嬉しくて、僕はもらったボールペンを握りながら、頑張って成功させなければと固く決意した。
ミーティングをした1ヶ月後の六月末のこと。花園さんから電話がきた。
「フラワーショップ猫島です」
『あっ、猫島さん?花園です。デザインが出来たんで、一度ご意見を伺いたくて……お時間頂けないかしら』
「大丈夫です。……今日ですか?」
今日は月曜日だから、夜になってしまうのだけど……。
『今週中に』
「水曜日が休みなので、水曜日でもいいですか?その日なら時間は何時でもいいんですけど」
『分かりました。じゃあ、水曜日の13時に会いましょう』
花園さんは約束を取り付けると、僕の返事を聞かずにガチャンと電話を切ってしまった。
やっぱり、嫌われてるのかな?
「誰?」
小野くんが電話の相手について聞いてきたので、「花園さんから」と答えると、あからさまに嫌な顔をした。
「うわ……あの感じ悪い人?何て言ってきたの?」
「フラワーアレンジメントのデザインができたから、見て欲しいらしくて。水曜日の13時に会いたいって言われたんだ」
「ふぅん……」
小野くんはじと~とした目で僕を見ている。
花園さんのこと、小野くんも苦手らしい。
「花園さん、苦手?」って聞くと、「苦手っていうか、嫌い」とはっきり返されてしまった。
「佳純さんに当たり強くない?あの人」
「何もしてないんだけどな。でも、仕事だし、そんなことばっかり言ってられないしね」
「佳純さんは真面目だなぁ~」
小野くんは少し困ったような顔で僕を見た。
「そこが佳純さんのいいところなんだけどさ」も付け加えながら。
――――
約束の水曜日になり、駅前のカフェに来た。
店員さんに待ち合わせをしていると伝えると、「こちらです」と案内された。
「こんにちは。猫島さん」
「あっ、こんにちは!お待たせしちゃいましたか?」
花園さんの前にはすでに軽食を食べた後のお皿があり、コーヒーを飲んでいた。
「いいえ。約束の時間の5分前ですもの。大丈夫です。相談する前に食事をしておこうと思って」
「そうなんですか」
店員さんが注文を聞きにきてくれたので、「ミルクティーを」と頼むと、花園さんはクスクス笑った。
「甘党なの?」
「ええ……甘いのは好きです」
「そうなの。男の子なのに、珍しいわねぇ」
言葉だけ聞くと、単なる会話なのに、この人が言うと嫌みっぽく聞こえる。
……ダメだ。人のことそんな風に思うのは。
これは仕事なんだから。
私情を挟むの厳禁っ!
頭の中で、×印を出しながら、花園さんに話しかけた。
「それで、デザインを見て欲しいって」
「これよ」
黒い高級そうなバッグから、ファイルを出して、デザインを描いた紙を出した。
色鉛筆で描いたデザイン画で、ピンクのバラをベースに色々な花が入っている。
結婚式に相応しい華やかなアレンジメントだ。
「綺麗ですね」
「綺麗なのは当たり前でしょ」
ピシャリと言い返されてしまった。
確かに当たり前……当たり前なんだけど……いや、我慢我慢。
「花はどれだけ必要なんですか?」
僕は持ってきたメモと、望さんにもらったボールペンを取り出した。
このボールペン、さらさらと書き心地が良くて、僕のお気に入りになった。
仕事中は肌身離さずもっている。
「このデザインのアレンジメントは、会場のあちこちに置く予定なの。だから、多目に欲しいわね」
花園さんは会場の図面を見ながら、配置する場所を確認する。
「ピンクのバラ500本と、白と黄色のガーベラ300本、カスミソウも300本、あとグリーンも少し入れたいから200本くらい欲しいわね」
僕はメモ帳にさらさらと書き込んでいく。
確認のため、もう一度花園さんが言ったことを復唱する。
「ええ。その本数でお願いするわ。それと、花はパーティーの日の三日前に搬入できるようにお願いしますね。搬入後、すぐに生けさせてよらいますので。それじゃあ、次のクライアントと約束がありますので」
花園さんはそれだけ言うと、伝票を持って行こうとする。
「あっ!払いますよ!!」
「結構よ。それから、バラのトゲの処理もよろしくお願いしますね」
それだけ言って出ていってしまった。
500本のバラのトゲの処理か……。
大変な仕事になりそうだ。
――――
〈小野目線〉
水曜日の13時、駅前のカフェに俺らは花園と佳純さんが話しているのをこっそり聞いていた。
席は二人のちょうど後ろ。木製のパーテーションの挟んだところだ。
さっきから佳純さんに対してのトゲのある言い方にイライラしていた。
佳純さんは何にも思わない訳ぇ?あんな言い方されて!
目の前の池村はパフェを飲むように食べながら、パソコンをいじっている。
「池ちゃん、それで仕事になってんの?」
「完璧」
相変わらず無表情だが、機械にかなり強いため、組の中でも重宝されている。
「はぁ~……佳純さんの代わりにガツンと言ってやりたいよぉ……」
空になったコップにささったストローを吸い上げる。
……薄い薄いオレンジジュースの味がした。
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