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第3話

それから真司の家族が帰ってくるまでの三日間、真司と晃司は互いの体を貪りつづけた。 ある時、いつものように寄り添いながら互いを愛撫していると、真司が切り出した。 「ねぇ晃司、男同士でもセックスってできるんでしょ?」 晃司はギクッとした。この時を恐れていた。なぜなら不本意にも、すっかり真司にリードされている状態だったから。もしそんなことになったら、晃司の役割はすでに決まりきっていた。 「…知らねーよ」 無愛想にかわしたが、真司はなおも引き下がろうとはしなかった。 「ま、いいや。自己流でやってみる」 初めて奉仕させられる前の、経験がないと消極的だった真司は、果たして今この目の前にいる淫獣と同じ生き物なのか?そう思わずにはいられない、強気で、畏怖すら覚えるほどの自信に満ちた真司がそこにいた。 「何言ってんだよ…」 有無を言わせず真司は晃司の腕を取り、ベッドに組み伏せた。もちろん、力では晃司のほうが勝っていたが、なぜかどうしても拒めなかった。 予想していた通り、いや、予想以上の激痛が走り、晃司は恥も外聞も捨てて叫んでいた。 「痛い!真司、やめろ!」 真司は聞く耳を持たず、それどころか晃司の哀願するさまを嬉々として見ながら、やめることをしなかった。 数分後。 真司は満足げに晃司の横に寝ていた。真司に背を向けて横たわる晃司は、自尊心を失い、涙を流していた。 「晃司…?なんで泣いてるの」 真司が心配そうに晃司を覗きこむと、晃司は鋭い視線を真司に投げかけた。 「痛かったのと、おれがやめろって言ってもやめなかった」 ああそのこと、とでも言いたげに真司は少し笑った。 「だって…痛がる晃司、すごく良かったんだもん」 言いながら晃司の手を取って舌を這わせる真司に、晃司は恐怖にも似た気味悪さを抑えられなかった。 晃司は咄嗟に真司から手を振り解いた。その強さに真司は少し躊躇い、 「晃司?…怒ってるの?」 それには答えず晃司は家を出た。 晃司は別に行くところもなかったが、とりあえずあの空間から、あの忌まわしい好意の余韻を残すあの部屋から逃げ出したかった。 無性に腹が立った。これまでずっと晃司の後を必死で追いかけてきた真司。弱い真司を守ってきたのはいつも晃司だ。しかも今回のことだって、元はと言えば初めは晃司が教えてやったのに。 自分が常に上位に立っていなければ気がすまない晃司は、大変な屈辱を受けたのだった。 心を落ち着けて真司の家に戻った。いくら夏といってもさすがに陽が沈む時間だったが、家の中は真っ暗だった。 不審に思いながら電灯をつけると、真司が倒れていた。発作を起こしていた。感情が高ぶると発作が出やすい。 「真司!大丈夫か?」 抱え起こすと真司は目を開け、力なく微笑んだ。 「晃司、嫌われたんじゃ、なかった…?」 「嫌いになんかなんねーよ。…おれまだ言ってなかったけど、お前のこと好きだからな」 「――うれしい」 二人は言葉を交わしながら、身体も絡まっていった。 「今度はおれが昼間のお返しさせてもらうぜ。…いいな?」 やはり晃司は根に持っていたのである。真司に覆い被さりそう言ってのけた。真司は黙って小さく頷いた。 晃司は慣れたものだった。いつもと少し位置をずらすだけで良かった。だが、今までにない快感が押し寄せた。 真司は晃司とは違って、自分の感覚を素直に表に出していた。快感よりも痛みが大きいと見えて、苦痛に顔を歪めている。 その悲愴でありながらも熱っぽく艶かしい顔を見て、今ならわかる、と晃司は思った。さっきの真司の言葉の意味だ。 しかし、どれだけ痛みを与えられても、真司はやめろとは言わなかった。 「痛ぇんだろ、涙出てんぞ。…やめてくれって言うならおまえと違ってやめてやってもいいぜ」 皮肉たっぷり、勝ち誇ったように口角を吊り上げて晃司は言ってやった。だが返ってきた答えは、晃司の完敗を決定付けた。 「誰がやめさせるもんか…止まらないで、早く達かせて」 三日間はあっという間に過ぎ、真司の家族が帰ってきた。 真司の母が引きとめたが、晃司はすぐに自宅へ戻った。 自宅へ戻ると、晃司の義姉・梨絵が、鬼瓦のような顔で出迎えた。 「あんた、この私を放って、いったいどこ行ってたの?!」 晃司はいつものヒステリーにうんざりし、無視して通り過ぎたかったが、一応返事をした。 「情ねぇ…おれ以外に相手いないんですか」 「誰に向かって口きいてるのよ?!私に逆らったらあんたも、あんたの母親もこの家にいられなくなるのよ!…それに、あんたは私が満足できるように調教したんだから、あんたに勝てる男はいないの!…わかるでしょ?」 終始厳しい口調だったが、晃司に擦り寄りつつ最後だけは甘えた声で言った。 晃司はこの義理の姉に小学6年生のときに犯されて以来、梨絵のダッチハズバンドを務めさせられていた。 拒否するとさっきのような脅し文句が返ってくる。本当にやりかねない女だからこそ、晃司には拒むことができなかった。 晃司自身、こんな家には何の未練もないが、母には迷惑をかけたくなかった。 いつも通り、さっさとやってさっさと終わろうと、晃司は任務を果たすべく行動を開始した。梨絵の身体は知り尽くしているから、真剣にやれば務めはあっという間に終わる。 「入れて…」 案の定、適当な愛撫の後すぐに梨絵は鼻にかかった声で欲した。 「―――?」 緊急事態発生。任務遂行は困難な模様になってきた。 ―どうやっても、立たない。 「何よバカ、サイテー!この家から追い出してやるから!」 梨絵の罵声を遠くに聞きながら、晃司は失意のどん底にいた。 (こ、この三日間、やりっぱなしだったから、ちょっと疲れてるだけだ) そう自分に納得させようとするが、ショックは大きい。 一晩寝ようと、エロ本を眺めようと、精力剤を飲んでみようと、何の変化も見られず、数日が過ぎた。 その日、真司は自宅で安静にさせられていた。また発作が起きたのだ。 晃司がベッドの横の椅子に腰掛けていると、徐に真司が呟いた。 「こんな身体、いらない…」 今にも泣き出しそうな真司は、堰を切ったように続けた。 「こんなすぐ壊れる欠陥品・・・背も低くって手足は細くて青白くって!こんな身体おれ大キラ…」 「真司…誰だって自分のことあんまり好きじゃねぇ。でもしょーがねんだよ」 晃司はそう言って真司をやさしく包み込んだ。 「でも、誰だって必ず誰かに必要とされてんだ。――おれにはこの身体が必要だ」 ここ数日の無反応の原因がコイツだったなんて――奇妙な感じだった。   もし、真司の肌の色がもっと黒かったら、おれのモノはここまで元気にならないだろう   もし、真司の手足がもっとごつごつしてたら、おれはここまでヤル気にならないだろう   もし、真司がもっと重かったら、乗っかられても苦しいだろう 「ずっと離れないで…」 真司が晃司にしがみついて離れない。 「どーした?こんな時のおまえらしくねーじゃん。何弱気になってんの」

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