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"大好き"の伝え方
2018/03/24参加作品
お題
・トラウマ
・いじらしい
・噛み癖
性行為は昔から好きではない。
好きではないと思っているのに、否応無く体は頭とは異なる反応をしてしまい、我を失うのが怖い。自分が自分で無くなるような、体が意思に反するリアクションをするのが、恐怖ですらあり、またそんな自分が汚らしく思えて仕方ないから。
嫌いな理由。
現在ではそれに加えて、昔のトラウマが蘇るから、という点も追加された。
初めての相手は教師だったが、たったひとりの理解者、たったひとり愛をくれた相手でありながら、泣いて嫌がるのも構わず初めてを奪われ、その後も愛という大義名分を振りかざし甘美な強制を強いられた。
あれからもう何年も経つのに、未だに性行為は好きになれない。
愛してしまうと、好きな気持ちが溢れてしまうと、傷つけたくなる。そんな自分の性癖を自覚したのはいつだったか。
伊織は奥を抉られながら、そんなことを考えていたが、やがて考え事をする余裕もなくなってきた。
自分の声と思いたくもない上ずったみっともない声と、粘着質で水っぽい音が呼応するように部屋に響く。
いま、繋がっている愛しいひと、ユキの逞しい肩。
だらしなく口を半開きにさせて、まるでまだ目の見えない赤ん坊が懸命に母の乳房を探すように、噛み場所を探す。
狙いをつけて、くちづけ、口を開け、食む。
ユキは少し顔をしかめ、声にならない、呻き声を漏らす。
その時、なんとも言えない、幸せを感じる。
大好き。
言葉では決して伝えない、伊織なりの愛の伝え方。
ユキとの初めてのセックスの際に噛んだ時は、力加減がわからず、ちょっとした流血沙汰になってしまった。当然別れを告げられると思ったが、次からはもう少し手加減しろ、とユキは笑って言ってくれた。
好きな相手を傷つけたい、壊したいという欲求は、今の所この噛み癖によって折り合いをつけられている。
コトが済むと決まって、伊織は申し訳なさそうにユキの肩を撫でる。たった今出来たばかりの、歯形の痕をなぞるように。
最中とは打って変わったいじらしい姿に、ユキはなんとも言えないギャップを感じてしまう。
行為のたびに増える歯形も、愛し合った証のように思えて愛おしく感じられる。
こんなことぐらいで繋ぎ止めておけるなら、いくらでも噛まれてやる。
いつのまにか隣で寝息を立て始めた恋人に、ささやかな仕返しとばかりに唇を甘噛みしてやった。
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