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episode6_1
マンションのエントラスを抜けて歩道に飛び出れば、李央の顔にパタパタと滴が当たった。
「雨…」
土砂降りではないが傘なしではたちまちずぶ濡れになってしまうだろう。
一瞬脚を止めた李央だったが雨など気にすることなく、いつもより早足に街の灯りへ向かった。
傘を広げた人達の視線を感じながら歩いていれば不意に李央の表情が緩んだ。
臣と再会したのも確かこんな日だったか。
高校卒業と同時に家を飛び出し、当てもなく彷徨い歩き、その場しのぎの日々を過ごすこと数年。今現在の李央が既に出来上がっていたある日のことだ。
『李央…、じゃないか?』
スーツをじっとり濡らして街中を歩いていると一人の男に肩を掴まれ声を掛けられた。
横顔の面影で声をかけ、振り向いた顔に確信した臣は肩を強く掴み李央をその場からさらった。
自宅に連れ込み、今より少し幼さの残る顔を臣はじっと見据える。
『傘も差さずになにしてる』
『……あんた誰だっけ?どこかで会った?』
濡れた髪を掻き上げた李央はしかめっ面をして臣を見るが、いまいち記憶が戻らないようで興味のなさそうに視線を外した。
『たかお。右京貴央』
臣はぼそりとその名前を呼ぶと、李央の顔が一瞬引きつった。
『ああ!思い出した。臣だ!何年ぶり?よく俺のことわかったね』
『随分雰囲気が変わったな』
『そう?臣は変わらないね、あの日と一緒だ』
興味のなかった表情が一変して、にやける瞳の奥に色が蘇った。
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